今夜、ハードロックカフェにて

ハードロックカフェ好きの先輩がいる。出張で東京に行くと、決まってハードロックカフェだ。

「先輩、またハードロックカフェすか?なんだか田舎モノ丸出しなんでやめましょうよ」と言っても聞かない。いつも、ハードロックカフェに連れて行かれる。

 「だってさあ、家では大音量でロック聞けないんだよね〜」

 「でも、ここでかかるのって先輩の好きなスミスとかジョイ・ディビジョンじゃなくて、ジャーニーとかの産業ロックばかりじゃないですか」

 「ああ、もう俺さ、英語でデカイ音であればなんでもよくなっちまったよ。ボン・ジョビでもデフ・レパードでも魂売った後のエアロスミスでも魂売った後のチープ・トリックでもなんでもいいんだよ」

 「そういうもんすかね。でもここって、ヒップホップとか、ロックじゃないのもかかる事多いじゃないですか」

 「なあ後輩くん、君のロックの定義ってなんだ?」

 「え?なんすかね。ビートルズが完成型なんでしょうか。最低限、人間が弾いたギターと、人間が叩いてるドラム、僕の中では、これがロックですかね」

ホワイト・ストライプス?」

「あ、そうですね」

「じゃあ、君が毎年、会社をサボって行っているフジ・ロック・フェスティバル、あれに出てるやつら、ほとんどロックじゃないじゃん」

「ちゃんと有給申請してますし!メンツだってみんなロックですよ!」

「いやだって、エイフェックスとかゴリラズとか、みんなDJじゃないかよ」

「じゃあ、先輩のロックってなんなんすか?」

 「俺はさ、セックスだな」

 「はあ?」

「いやいや、ウィキペディアにもちゃんと書いてあるんだよ。ロックはもともと性交を意味するスラングだって」

 「じゃあ、イアン・デューリーが歌ったセックス・ドラッグ・ロックンロールって、セックス2回言ってるって事ですか?」

イアン・デューリー!懐かしいね〜。そう、誰も気づいてないけど、あれ正確には、セックス・ドラッグ・セックスだな、あれ。セックスでドラッグを挟んでるんだな」

「メチャクチャですね」

「いや、イアン・デューリーに聞いてみろ。絶対そうだから。セックスでドラッグを挟んでる状態、めちゃくちゃロックだよな」

「じゃあ、フジ・ロック・フェスティバルって・・・」

「そうそう、あれももともとは、富士山状態でファックしようぜって事だから。そう考えると色々と感慨深いよな〜」

「最低の感慨ですね」

「あ!ブルーマンデーかかった!!」

「いつの間にリクエストしてたんですか?・・・でも先輩が嫌いな88バージョンの方ですね。チョイなチョイな言ってる方」

「んなこたぁ、どうだっていいんだよ!バカデカい音で鳴らされる音楽、これがロックだな」

「さっきのセックスの件り、なんだったんですか」

 

カールコードに巻かれて

財布をよく落としてしまいます。今までの人生で、たくさん落としてきました。落とした事に気付く度に、心臓が止まりそうになります。まるで、映画「ロック・ストック・トゥー・スモーキング・バレルズ」で主人公がギャンブルで全財産をスッた時に、心の中でイギー・ポップ(ストゥージーズ)のアイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグが大音量で鳴り響くシーンがありますが、まさにあの感じです。命、削られますよ。失くした財布は、まったく出てこない事もあれば、金だけ抜かれて出てきたり、落としたときの状態で出てきたり、その再会は様々だ。だけど、ほとんどまったく出てこないケースが多い。もしかしたら亜空間に飛ばされているのかもしれない、俺の財布。

対策として、財布にカールコードをつける事にした。もう5年くらいカールコードをつけているが、この5年間は財布を落としていない。対策が功を奏している。なぜカールコードにしているかというと、ドクターフィールグッドの影響だ。彼らのライブ映像で、「ギターコードがカールコード」なのを見たからだ。だけど、5年間誰にも「フィールグッドっぽいすね」とか「ウィルコ(ジョンソン)の影響っすか?」など話しかけられた事は無い。その代わり「私服刑事みたいっすね。アブナい刑事すか?」と聞かれる事はよくある。その度に僕は、不機嫌そうに「関係無いね」と吐き捨てることになる。

いいのさ、この世のどこかに、絶対に、俺の財布につけたカールコードを見て、心の中でウィルコのギターカッティングを響かせている輩がいるはずなんだ。そんな男への、俺なりの孤独のメッセージなんだよ!「タカ、タカ、ターカー、関係無いね、ウェイクアップ」って、心に恭兵の声を響かせてるやつには、勝手にやってくれと言いたい。

 

ある時、田舎のパチンコ屋の換金所で並んでいる時に、前に並んでいたガテン系のニーチャンの携帯の着信音が、ポーグスだった事がある。こんなド田舎にポーグス好きがいる事に感動し、ニーチャンが携帯電話を切った後、思わず話しかけてしまった。

「ポーグス最高っすよね!」

「ああ?」

「いや、着信音、ポーグスでしょ」

「あ〜あ」

「シェーン最高っすよね!」

「ああ!」

「今度、どっかであったら一杯おごるよ!」

「ああ〜」

「(あ、しか言えんのかい)」

あいつにまだ、あの時の一杯奢る約束を果たせていない。駅前のアイリッシュパブに行く時は、一応、いつもおまえの姿を探してるんだぜ。

 

最近は、財布の代わりにケータイを落とすようになった。ケータイの対策は、いずれ考えなければなるまい。

真昼の攻防戦

昼またぎの出張。移動時間が特急の乗車時間に重なった場合、車内が空いている事を確認した上で、特急列車内で昼食をすませることにしている。混んでいるお店が苦手だからだ。

駅弁はいつだってあまり気が乗らないので、パンをチョイスしている。パンか・・・ふにゃふにゃのパン。なんだか逃げの選択を打っているようで、我ながら情けない。たまには、豪快にEKIBENをキメるべきだよな〜・・・なんて心の中で独りごち、何の気なしに後ろを振り返ると、僕の通路またぎ斜め後ろの席で豪快にEKIBENをキメている女性の姿があった。そのインパクトある光景パワーに負け、反射的に目を逸らさせられてしまう。しまった。女性の顔を見逃した。「下半身は黒のタイトスカート」「長くて細い足」ってことだけ確認できる。そして、EKIBENだ。デカい。さらにそのEKIBENは、どデカいトンカツだけが乗っかった破壊力抜群のEKIBENだ。

自分が買った 「ちょこっとチョコのクロワッサン」を恥じる。どうせなら、「デカあ〜んパン」か、「ビッグ・ソーセージ・ドッグ」にすればよかったと後悔する。

もう一度、女性の方をさらっと振り返る。顔は見えない。今、まさに箸でデカいトンカツを持ち上げて揺らしている瞬間だ。顔が気になる。顔が見たい。トンカツを頬張る顔。美人なのか、そうじゃないのか。

ヤツの方からは、恐らく俺の姿は見えているはず。俺が、「ちょこっとチョコのクロワッサン」をちょこちょこふにゃふにゃ食べているのを確認し、心の中で思いっきり嘲笑しているに違いない。チクショー、こんな屈辱ってあるだろうか。後ろから女にEKIBENをキメられ、自分は「デカあ〜んパン」を食べているなんて、ご先祖様が知ったら失望の底の底に沈んでしまい、二度と浮かび上がってきやしない事であろう。いや、俺がいま食べているのは「デカあ〜んパン」ではなく、「ちょこっとチョコのクロワッサン」の方だ。そんなもん、どっちだっていい。

なんて事を考えていた。やがて、車両内に僕の目的の駅に到着するアナウンスが流れる。思い切って、女性の顔を見る前提で水平に後ろを振り返ってみた。女性の姿は既に無かった。そこには、喰い荒らされたEKIBENの残骸が置いてあるだけだった。

帰りがけに僕は、EKIBENの残骸を拾うと、それをあたかも「自分が食べたEKIBENです」といったかのように天に高く掲げ、車両のダストBOXに豪快にスラムダンクをキメてEKIBENを葬った。

プライドをかけた魂の三曲勝負

前から気になっていたあのお店。店の入り口に、でんとジュークボックスが鎮座しているのが、外からでも伺い知れる。あのジュークボックスの中には、いったいどんなレコード達がセッティングされているのだろうか。そんなことを、店の前を通りすぎる度に想像してワクワクしていた。

今日、タイミングよくその店に入れるチャンスが巡ってきた。お昼のコアタイムを外した時間。見たところ、店内の客はまばらだ。えいや!と思い切って入ってみた。外観から想像していた通りのアメリカンな店内。古びたアメリカの看板や、ゴールドディスクや、アーティストのポスターや、サイン入りギターなんかが店内の至るところに飾られている。想像通り思いっきりベタだけど、悪くない。俺はこういった感じの雰囲気、実は大好きなんだ。

ハンバーガーを注文し、早速、ジュークボックスをチェックする。そこに並んでいる文字は、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、スタイリスティックス、アース・ウインド&ファイアなどの70年代ロックとディスコナンバーが中心だ。やはりメジャーな曲が多いな。ふむふむ、100円で3曲選曲できるシステムか。おそらくこれは・・・店からの挑戦状だな。選曲チャンスを3曲ももらえれば、どんな曲を選ぶかでそいつの歩んできた人生がだいたい分かる。これは、絶対に外せないぞ。PKを蹴る時のサッカー選手の緊張感でもって、頭の中で選曲の組み立てをシミュレーションする。店内には大音量でBGMが流れていた(クイーン)ので、一旦、席に戻る。

と、ここで、店内のBGMが途切れる。やはりきたか。店主め、俺がジュークボックスに興味を示したのを見ていたな!店側から俺を誘ってきやがったぜ!望む所だ!静まり返る店内、俺はゆっくりと立ち上がり、再びジュークボックスの前に立った。店主に一声かける。「これ、かけてもいいですか?」「いいですよ。お金入れて、3曲連続でボタン押して下さいね」不敵に笑う店主。店主よ、俺をナメるなよ。俺は見た目は体育会系だが、中身は超がつくほどの文化系だからな、コノヤロー。心に決めていた3曲を手際よく押す。A面が上の段で、B面が下の段だ。しくじるなよ。

選曲を終えて席に戻ると、デカいハンバーガーが出てきた。バーガーにファースト・バイトを決めた所で、ディッキー・ベッツが奏でるギターのイントロが流れてきた。


Allman Brothers Band - Ramblin' Man

 

俺が一曲目に選んだのは、オールマン・ブラザーズ・バンドのランブリング・マンだ。

残念ながらオールマンは、このシングルしかなかった。B面はポニーボーイだ。オールマンを選んだ理由・・・それは、最近亡くなったグレッグ・オールマンへの追悼だ。

 アメリカンな店内と、昼下がりの暇暇タイムにマッチした、我ながらレイドバックしたいい一曲目の選曲だと思う。

 

2曲目、おなじみのイントロがレイドバックした空気を切り裂く。


Derek And The Dominos - Layla

 

デレク&ドミノスのレイラ。デレク&ドミノスもこのシングルしかなかった。B面はアイ・アム・ユアーズね。この選曲には理由がある。ランブリングマンに足りないもの。それは、グレッグの兄貴、デュアン・オールマンのギターだ。ま、どっちがクラプトンで、どっちがデュアンが弾いてるのか俺には全くわからないのだが、わかってるような顔をしてコーヒーをすする。残念ながらシングル・バージョンは、ボビー・ウィットロックのピアノが始まる前にフェードアウトしてしまう。

 

3曲目、正直、これは悩んだ。ジョージ・ハリスンもおもしろいな・・・と思ったが、あいにくヘイ・ジュードしかなかった。悩んで壁を見ると、あの人がギターを抱えて歌っているポスターが目に入った。


David Bowie - Starman

デビッド・ボウイのスターマン。ランブリング・マンが、最後、スターマンになった。

 

かくして、俺の魂の3曲勝負は終わった。

 3曲の演奏が終わり、しばらくすると、店内にはメタリカのキル・エム・オールが大音量で流れ出した。

 

お勘定の時に、店主から

「なかなかいい選曲でしたね。あなたの選曲、物語がありましたよ。ランブリングマンからレイラの流れ、オールマン・ブラザーズのパズルが完成した感あって、涙出そうになっちまったよ、まったく。恐れ入りました。ところで、バンドでもやってたの?」などと聞かれる事も無く、無言で1,000円払って店を出た。思いがけず昼飯を2回食っちまったので、今日は晩飯抜きだな・・・。

えびの

息子が、「学校の授業で生き物が必要になった」と私に訴えた。きたきた、待ってたぜ。虫が苦手な長男の時は、妻が私に断りも無く、イージーにダンゴムシで済ませた。私は、妻のその虫チョイスがはっきり言って不本意だった。チョイスする虫のセンスで、その家庭の家柄の質を問われるじゃないか。我が家のチョイスが「ダンゴムシ」とは何ごとだ!と心の中で激昂し、肩を震わせた。次男は、多少、生き物に触れる事に免疫がある。今回は、満を持して私が主導権を握る。

「で、お前は何がいいんだ?トカゲとかいいんじゃないか?」

カナヘビは、先生が嫌がるからな〜。ザリガニにするわ」

息子にサラっと「俺たちがいつも捕まえて遊んでるのはカナヘビだよ」と暗に指摘された事に少しイラつき、車のキーをガチャっと雑に突っ込む。まだ、「近所のスーパーに買い物に行く感覚」で、多種多様な生き物を簡単に調達できる所が、田舎のいい所だ。都会では、こうはいかないだろう。ここでは、それこそミミズだってオケラだってアメンボだっーてーよろしく、みんなみんな簡単に調達できる。都会じゃ、オケラなんか相当なレアものだよな。

 妻の友人からあらかじめ聞いておいたザリガニ生息ポイントへと向かう。そこは、田んぼの用水路のようなドブだ。上から覗き込む。いたいた。やや小ぶりなザリガニが水中でたくさん蠢いているのが、肉眼でもはっきりと捕らえられた。ガキの頃の狩猟手段は、「入水して掴み取り」一択だったが、さすがに悪臭を放つ汚ドブには入水できず、誠に不本意ながら釣りにした。(ガキの頃は、ザリガニをわざわざ釣る奴は、皆から馬鹿にされた。「入って捕った方が早いじゃん!」つって)

スルメのエサをミシン糸にくくりつけ、垂らす。すぐにザリガニが飛びついてくる。奴らの習性で、一度食らいついたら、なかなか放さない。

息子が小さい小エビを釣り上げた。「それは小さい赤ちゃんザリガニだから、リリースしたら?」と言ったが、息子は少し考えて、逃がすのを辞めて小エビをキープした。

 

結局、8匹釣って2匹リリース(片腕のザリガニ2匹)したところで、突然の夕立ちに見舞われ帰宅した。途中、100円ショップで水槽を6個買った。

「なんで水槽をそんなに買うの?」

「こいつらは、夜、喰いあうんだよ。共喰いってやつだ」

「へ〜」

 

帰宅すると、息子が、

「ザリガニって普段何を食べてるの?」と聞いてきた。

「雑食だからなんでも食うけど、まあ、オタマジャクシとか水草とかかな」

「あそこのドブさあ、ザリガニのエサ無かったよね」

「ああ。汚いドブだったから、見事にザリガニしかいなかったな」

「ということは、共喰いするって事?」

「ああ、多分、そうなるな」

「じゃあ、僕が捕まえた小エビちゃんは、あそこにいたら食べられちゃったかもしれないんだね」

「確かに。お前の小エビちゃん、あそこにいたら食われちゃったかもね」

「じゃあ、命救ったんだね。これ、小エビの恩返しあるかも?」

「小エビの恩返し!・・・ある日、少年が小エビの命を救った。翌日、少年の学校に転校生が入ってきた。それはそれは可愛いらしい女の子で、名前は蛯原友里。転校生は、「エビちゃんって呼んで下さい!」とみんなに自己紹介した」

「うんうん。それから?」

エビちゃんは、たまたま空いていた少年の隣の席に座ることになった。席に着くなり少年の方を向き、ニッコリ笑うエビちゃん。そして、エビちゃんは、こう言った」

「何っつったの?」

「私の家、天ぷら屋さんなの。よかったら今日、エビ天食べに来ない?天むすもあるわよ」

「いや、俺、エビ・アレルギーだし。食えないし。何、その恩返し?」

「ああ、そうだったな。お前、ザリガニ掴んだりするのも肌にヤバくないか?」

「あ!ヤバ!もしかして、俺、死ぬ?」

息子は、妻から「エビを食う=死」と洗脳されている。

「ハハハ。それじゃあ、エビの恩返しならぬ、エビの復讐だな」

暗殺者コードEBI、アメリカのドラマにありそうなタイトルではある。