少年団と中年団

下の息子がずっとずっとず〜っとサッカーを習いたいと言っていたので、重い腰を上げて少年団に入団する。団は、まあ予想通りだったが、すこぶる親としての居心地が悪い。3分で帰りたくなる。やはりサッカー好きの父親が多く、全員が練習に親子で参加している。俺はというと、M65ジャケットにジーパンというまるで映画タクシードライバーの主人公トラヴィスのコスプレのようないでたちだ。俺のモヒカンに刈り込んだ頭を見て、「あ、もしかして、ナインゴランですか?それともビダルですか?」とやたら聞かれる。どっちも違うな。これ、どっちかっていうと、ランシドだから。

ミニゲームが始まった。大人対子供だと?「一緒にプレイしましょうよ」と爽やかに誘われる。俺はサングラスをかけて、ニヤニヤするだけだ。どっちかっていうと、俺のプレイはヘッドバンキングしながら弾く方だからな。

 

帰りに昼食で立ち寄ったマックで、ハッピーセットを頼んだ息子が、全然ハッピーじゃない感じで口を開いた。

「どうして父ちゃんは一緒に練習に入らないの?」

「ああ、父ちゃんはな、キック力がもの凄く強くて、本気でやったら子供達皆んな怪我しちゃうんだよ。で、父ちゃんはいつでも本気出す人間だから、手加減とかできないんだよ。知ってるだろ?」

「そうだね」

「わかってくれればいいんだよ」

「うん」

来週は、ヤツラ、「暑いからタープ張ります」って言ってたな。タープか。俺、タープなんてもんは、産まれてこの方張った事無いぞ。ヤツラ、多分、俺に頼んでくるな。本当にムカつく現実だが、おそらくタープ張り作業だけが、あそこで俺が生き残る唯一の道になるだろう。帰りにタープを買って帰った。タープ張りを庭で練習する為だ。まったく、中年団への入団は辛いぜ。

World In Motion

World In Motion

 

サーチ&デストロイ的な彼氏

バイト先でいい感じになった女子から、「芸大の学祭に行かへん?」と誘われる。もちろん2つ返事でOK。しかし、こっちがOKした後に「私のカレシがその芸大にいる」とぶっ放しやがった。あ、やっぱコイツカレシいるんだという軽い喪失感と、だったらなんであの時あの大きな胸をぐいぐいと俺に押し付けてきたんだという軽い不信感と、しかも俺をカレシの前に連行するというこちら側の理解を超えた存在の耐えられないほどに軽すぎる行動とで、ボブ・ディラン風に言えば、俺はブルーにこんがらがった。複雑にこんがらがっちまった感情の結び目を少しずつ紐解きながら、彼女が指定した待ち合わせ場所である京阪三条駅の土下座像前へと急ぐ。土下座像に着くと、彼女はまだ来ていなかった。

最初の注目は、「彼女がどんなファッションで現れるか」だった。彼女は普段からファッションに拘りを持っていて、その点が俺が彼女に惹かれた要因でもあった。(まあ、最大の惹かれ要因は、あの大きな胸の膨らみではあるのだが・・・。)やがて、彼女が優雅に歩いて現れた。今日の彼女のファッションは、俺の頭の中にジェームズ・ブラウンの「ホッペ〜〜ン!」というシャウトが響き渡るぐらい思いっきり短いピチピチのホットパンツにカラフルでヒラヒラしたシャツ。足元は、これでもかと高い厚底のブーツを履いていた。このスタイル、まんま映画タクシードライバージョディ・フォスターじゃないかよ。偶然にも俺は今日、M65ジャケットにデニムを合わせた格好だ。これでもし俺がモヒカン頭にサングラスのスタイルだったら、完全にタクシードライバーコスプレイヤー2人組じゃないか。やっぱ俺達、相性抜群だなと、運命的な繋がりを感じる。

ガラガラの電車に並んで座る。ガラガラだというのに彼女は距離を詰めて座ってきて、俺にぴったりと寄りかかってきた。女性の洗いたての髪の匂いと、攻撃的な香水の香りが鼻腔を突く。悪くない。あれこれお喋りをしていると、時折俺の腕が彼女の弾力ある胸にあたり、やんわりと跳ね返される。俺は、身も心もタクシードライバーの主人公トラヴィスになりきり、頭の中では、これから出会う事になるであろうチャラいカレシをブチのめし、この可憐な彼女を奪還するというイメージトレーニングを繰り返していた。

やがて、大学に着いた。芸大の学祭は、独特の異様な盛り上がりで(敢えて例えるならば、真夏にカレーを食いながらジャマイカを舞台としたイかれたレゲエ映画を見る時みたいな雰囲気だ)、その熱気に飲みこまれそうになる。イカイカン。負けるもんか。

「あ、あれがカレシなんだ」

小さな声でつぶやいた彼女の視線の先にいたのは、いかにも怪しい風体のやたらガタイのいい男だった。え?アイツ?アイツがカレシなの?

「ちょっと呼んでくるから、待っててね」

ちょ、ちょ、ちょっと待って。男の風貌がこちらの想定を遥かに超えて怪しすぎて、心の準備が間に合わない。緊張が走る。ノコノコついて来ちまったが、もしかしたらぶん殴られるかもしれない。ヤバイ予感しかしない。

「あ、こちら、前に話したバイト先の○○くん」

「あ〜、関東の人やな。あんた、ロック好きなんやってな!ヨロシクな!」

と、カレシは大きな声で俺に握手を求めてきた。そのカレシは、なぜか上半身スっ裸で、下はピタピタの黒の革パンツ。髪はモジャモジャの長髪だが、顔面は完全に間寛平というまるでジム・モリソンと寛平ちゃんをミキサーにかけて出てきたスムージーのような男だった。

「よ、よ、ヨロシク」

仕方なく握手を交わす。ハザマ・モリソンは俺の手を力強く握り返し、満足そうに頷いた。

「今からステージあるから、見てってな」

と言って振り返ると、両手を上げて「ウォーー」っと奇声を上げて走って去って行った。

「・・・カレシ、超個性的だね」

「うーん、最初はオモロかったんやけど、最近、ついていかれへん」

「・・・。」

体育館に移動して、ステージを見る。ステージの題名は、「芸大新喜劇 in Fun House」という嫌な予感しかしないタイトルだった。幕が上がると、桑原和夫扮するおばちゃん役の人が出てくる。吉本新喜劇定番のうどん屋のコントだった。池乃めだか扮するちっちゃいヤクザ役の人が出てきて、話が進む。ギャグは新喜劇の丸パクリ。会場はウケてるけど、普通だな。

と、そのユル〜い雰囲気をぶち壊すかのように、唐突にストゥージーズのI wanna be your dogの凶暴なイントロが会場に大音量で流れだした。なんだ?なんだ?すると、その出囃子に乗って、上半身裸のデカい男がもの凄い勢いで袖からステージに飛び込んできた。さっき握手したハザマ・モリソンだ!と、うどん屋のテーブルに全速力でタックルをブチかまし、テーブルをステージ横にぶっ飛ばした。そして、うどん屋のカウンターに並べてあったビール瓶を何本も叩き割り、その破片の上にダイブしてのたうち回った。後に、そのビール瓶は、ガラスでは無く「身体に優しい素材でできたもの」と知るが、その時はわからない。イ、イギー・ポップだ!こいつ、イギー・ポップになりきってる!

わけのわからない言葉を大声で叫びながら長いことのたうち回った後に、ハザマ・モリソンはスクッと立ち上がると、ステージの真ん中で唐突に革パンツを降ろした。ノーパンだった。会場の女子達から悲鳴が上がる。そして一言、「がんばっとるか〜?」とブッ放した。は、間寛平

帰り道、もの凄い敗北感に襲われている自分がいた。不覚にもあの男のパフォーマンスに俺は感動してしまった。あの男の狂いっぷりは、常人では到達できない。もはやロックスターの域だ。そして、まあ、ヤツが革パンを降ろした瞬間、違う意味でも俺は完全に敗北した。

「やっぱりな、ウチあの人についていかれへんねん。だからな、今日、○○君についてきてもらってん」

「ああ」

「今日な、ウチ帰りたくない」

帰りの電車で、肩越しに女子が泣きそうな小さい声でつぶやいた。

俺は超至近距離で彼女の濡れた目を見つめ、「だけどね、イギー・ポップ好きなヤツに悪いヤツいねえからね」と、ど直球の関東弁で返した。

 

I Wanna Be Your Dog (Remastered)

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  • The Stooges
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ボツ

実は、ずっと書き溜めていた小説のようなもんがある。正確には、あった。

 

その内容は・・・

とある学園の体育祭の話。その体育祭では、毎年恒例である応援部主催の応援バトルが、体育祭一番の盛り上がりを見せるイベントとなっている。応援バトルの内容は、伝統ある応援部の披露する応援演舞に、有志の応援団が応援合戦で挑戦するというものだ。毎年、統率の取れた一糸乱れぬ演舞を披露する応援部が優勝するのが規定路線となっていて、有志の応援団は嘲笑の対象でしかない言わば応援部の咬ませ犬だ。よってこの学園では、応援部の連中が日頃から非常にデカい態度を取って幅を利かせている。

イジメられっ子のAは、なんの取り柄もない少年だったが、誰もが息を飲むハイトーン・ボイスと、鍛え上げられた鋼の肉体を隠し持っていた。

 

で、何だかんだあって、Aは冴えない連中を集めて応援合戦に参加するのだが、その際にAが演舞の楽曲に選んだのがクイーンのWe Will Rock Youで、その圧倒的なパフォーマンスで観衆全員の度肝を抜く。

 

・・・ってな流れの話だったんだけど、何かこれもう発表するにはタイミングを逸した感あり。今更「クイーン」と記述するのは色々と無理な感じの世の中になっちまってて、本当に悲しい限りですわ。まさかこの時代にフレディが大復活するとは、夢にも思わなかった。ま、嬉しいんだけどさ。

Somebody to Love

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マイルストーン

俺は、ダーティーハリーが好きだ。いや、こう言うと誤解されるかもしれないが、44マグナムぶっ放しだとか、バスジャックのシーンなんかにグッときてるわけじゃないぜ。ダーティーハリーっていうと、どうもデカい拳銃の方ばかり注目されちまっていけねえや。俺は、正確に言い直すならば、ハリー・キャラハンの立ち位置が好きだ。汚れ仕事の担当者だとか、出世を諦めた現場主義だとか、豊富な経験に裏打ちされた自信とか、そっちの方ね。俺の記憶が正しければ、ハリー・キャラハンはいつもシャツの第1ボタンを外して、細っいネクタイを緩めに締めていた。だから俺も、シャツの第1ボタンを外して、細っいネクタイを緩めに締めてる。これはさ、誰も気づいてないし、誰にも聞かれないんだけれど、実はハリー・キャラハンの影響なんだ。そんな自分だけにしかわからないこだわりに、こだわりたいんだよ。

 

3月末で定年退職するお世話になった方に会いに行く。せっかく来たってのに相変わらず無愛想で、ゆっくり相手をしてくれそうもない。いつもは大人しくスゴスゴと退散するけど、今日は粘らせてもらうぜ。

「この後、どうするんですか?」

「ああ、まだ働くよ」

「意外ですね。趣味のレコード聴き倒すのかと思ったんですけど」

「いやあ、嬉しい事に、声かけてくれる人がいてね」

「そうすか」

「あ、そうだ。お前が会社で作ってる社内報、あれもう送ってこなくていいからな」

「なんでですか?」

「いや、見てると羨ましくて、帰りたくなっちまうからさ」

「そんな事、言わないでくださいよ」

「いや、本当なんだ。それだけはさ、お前に言わなくちゃってずっと思ってたんだよ。来てくれてよかったよ」

「そうすか。最後に俺に伝えたい事がそれって、なんか寂しいですね」

「まあ、今後もどこかで出くわすだろう」

「ジャズの話ができる上司、〇〇さんだけでしたわ」

「そんな奴、ロクなもんじゃねえよ」

「では、また」

「あー、〇〇君・・・。妥協すんなよ」

Milestones

Milestones

 

続・顔

街ですれ違う人、人、人。おい、あんた。あんたが向かう先、俺と逆。一体どこに行こうってのさ。教えてくれよ。

そのすれ違う顔から、俺が今までの人生で会ってきた顔をあぶり出す。

取り引き先の彼、息子の友達の親、アイツ、高校時代の教師、あの時飲んだあの子、親戚のオッサン、ニコラス・ケイジ、アイツ、あのスナックのママ、定食屋のマスター、いつもいる警備員、アイツ、アイツ、アイツ、アイツ、アイツ、気づけば、浮かんでくるのはアイツの顔ばっかりじゃねえか。アイツはもうこの世にいないってのに。

 

知らないバーに入る。奥からアイツが出てきて、カウンター越しに俺に語りかける。

「最近、どう?」

「ああ。あんまり良くねえな。でも最低では無いな」

「そいつは、よかった」

「よかった?いいのか?」

「笑」

「そっちはどうだい?」

「こっちは何も無いね」

「無か。じゃあ、無に乾杯だ」

「・・・」

「久しぶりなんだから、飲んだら?」

「・・・」

「たまには、「いつもポジティブに考えていればきっといい事がある」だとか、「お年寄りに席を譲ると運が開ける」だとか、「今日のラッキーカラーは灰色です」だとか、神様みたいな事を言って励ましてくれよ」

「昔、神は死んだって言って騒いでなかったっけ」

言ってた。よく覚えてるな。

 

ま、もう少し頑張ってみるか。

 

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Quicksand

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