エド

「先輩、絶対好きだと思うんですよ」

 

「ああ?誰?」

 

エド・シーランって言うんですけど」

 

エド?ソロ・アーティストか。バンドじゃないのね。知らね〜。

「あ〜、エドね」

 

「あ、やっぱ知ってました?実は自分、最近、エド・シーランにめちゃくちゃハマってるんすけど、いつも先輩がオススメしてくれる系の音だな〜って思ってて」

 

「あ〜、ホント」

 

「やっぱ先輩も既に好きでしたか〜。ちなみにどの曲が好きすか?」

 

「あ〜、まあ、どの曲って言われると・・・ちょっとパッと出てこないけど・・・」

 

「似たような感じの曲、多いすからね!」

 

そうなのか。お前、本当に好きなのか?

「あ〜、ちなみにお前は?」

 

「あ、自分すか?ベタなんですけど、やっぱりTHINKING OUT LOUDっすかね。ジムで汗流して、トレーニング終わりの運転中の車内で流すと、なんか気持ちがゆったりとしていいんすよね〜」

 

おいおい、だいたい俺はそんなリア充みたいなシチュエーションでロックを聴いた事が無いわ。俺がロックを聴く時は、薄暗い部屋の片隅でとか、汚れたカーペットに突っ伏してとか、安酒が入った飲み口が欠けたグラスを片手にとか、そんな、書いてるそばからもの凄い悲しさがこみ上げてくるようなシチュエーション・オンリーだわ。

 

早速、帰宅してエド・シーランの音をチェックする。お!確かに良いじゃないか。心地よいアコースティックな響き。まるで、エリオット・スミスから猛毒を抜いたような、そんな感じ。

 

Wikipediaエド・シーランを検索して背筋がゾッとする。そこには俺がいたからだ。え?こいつ、俺か?いや、そんな訳は無い。こ、こ、この男が、確かにエド・シーランっていうアーティストなんだ・・・。

その歌声から、イケメンを想像していた俺の予想の遥か上の上を超えてくる超ド級のオッサン・ルックスに、我が心の臓がガタガタと震え出す。検索でPCの画面に浮き出てきた画像は、眼鏡をかけて無精髭をたくわえた中年ぶとりの、まるで鏡に映る俺そのものじゃないか!

 

検索を続けよう。えー、なになに。グラミー賞4回も取ってるのか。んで、

 

2017年から2019年まで続いた『÷ Tour』は総計7億3670万ドルの興行収益、総動員数815万684人の規模となり『史上最も成功したコンサートツアー』でU2保有していたワールドレコードを破り1位となった。
 

 

なんだかよくわからんけど、並んでる字面だけでその凄さが伝わってくる。U2超えか。この偉業を成し遂げたのが、俺と同じルックスしたアイツ。俺とエドの歩んできた人生のあまりの格差に愕然とする。

なになに、結婚してんのか。チクショウめ。

 

2018年 同級生だったチェリー・シーボーンとの婚約を発表。彼女とは子供の頃から友人で、初めて会ったのは11歳の時。シーボーンは会計士で、2015年、同窓会で再会を果たし交際に発展。
 

 

同窓会で再会。そんでもって結婚。同窓会で再会か〜。そうだ!同窓会で再会だ!

もしかしたら俺にも「同窓会で再会」チャンスがあるかもしれないぞ。思い起こせば、幼稚園の年長ツバメ組の時代、あの頃の俺は輝いていた。俺は運動会のリレーのツバメ組代表のアンカーだった。みんなから応援され、前を走る全員をぶち抜いてゴールのテープを切った。ああ、あの時放った俺の眩い輝きよ!エド・シーランにも負けちゃいないぜ。同窓会だ!同窓会で再会だ!そんでもって結婚だ!

 

早速、フェイスブックで、「〇〇幼稚園ツバメ組19XX年卒同窓会実行委員会」を立ち上げる。実行委員長である我が顔面の画像設定を、躊躇なくエド・シーランが親指立てて微笑んでる画像に設定。完璧だ。これで、ミヨちゃんもケイちゃんもジュンちゃんもノリちゃんも、みんな集まってくるぞ。俺は黒いタキシードを着て、弾けないギターを小脇に抱えて、彼女達を待ち受けるんだ。そんでもって結婚だ!

 

その時、エド・シーランをストリーミング再生するiPhoneの画面が、俺の名前を呼んだ気がした。ふとiPhoneに視線を移すと、画面いっぱいに大きなバツ印が映っていた。その大きなバツ印は、画面から空中に飛び出し、グルグルと回転して俺の胸にグッサリと突き刺さった。痛え。

Thinking Out Loud

Thinking Out Loud

  • エド・シーラン
  • ポップ
  • ¥255



 

暗夜行ロウ

「もしもし、あー、なんだか、車、止まっちゃったみたいです」

 

「そうか。ちなみに、今、どこだ?」

 

「ここ・・・どこすかね?とにかく何も無い山の中です」

 

「マジか。残念なお知らせだけど、俺、酒飲んじゃったから迎えには行けないわ。こんな夜中じゃあ、レッカー車も手配できねーしな」

 

「うちの会社、JAFとか入ってないんすか?」

 

「そんなもん入ってるわけねーだろ。ちなみに、お前、最後にコンビニ見たの覚えてる」

 

「ずーっと一本道だったんで、来た道を引き返せば、確かコンビニがあったと思います」

 

「じゃあ、とりあえずコンビニまで行って、そっから自力で何とかしろ」

 

「何とかしろって、どうすればいいんすか?」

 

「そんなもん自分で考えろよ!あ、コンビニで何か買ったら、レシート取っとけよ。じゃあ、頑張って」

 

プチッ。ツー、ツー、ツー。

 

最悪だ。これ完全に山の中だな。辺りは街灯も無く、眼前に拡がる光景は漆黒の暗闇。ヒッチハイクしようにも、対向車は来る気配すら無い。真夏の熱帯夜。車内の気温はみるみる上がり、吹き出す汗がTシャツをじっとりと不快に濡らしていく。暑い。仕方ない。歩くか。

 

車を置いて、トボトボと歩き出してはみたものの、湧き上がる凄まじい恐怖心が抑えられない。とにかく辺りはまっ暗闇である。虫の声だけがジンジンと不気味に鳴り響く。道横の茂みの奥からは、今にも熊が出てきそうな気がする。この辺は熊の生息圏ではないはずだけど、そんなもんあてにならない。

歌だ。熊を避けるには、歌しかねえぞ。

 

Wi-Fiは使えない。ここは、iPhoneにダウンロードしておいたプレイリストに頼るしかない。早くもこの時点で嫌な予感しかしない。普段、「真っ暗闇の山中を一人で歩く時に流すプレイリスト」なんて、作っていない。俺がiPhoneにブチ込んでるプレイリストときたら、「女にフラれた時のBGM」とか、「死にたくなった時に聞くBGM」とかばっかりだ。

 

1曲目

BECK : The Golden Age

 

2曲目

WILCO :How To Fight The Lonliness

 

3曲目

Jesus and Merry Chain : Some Candy Talking

 

4曲目

Pixies : Wave of Mutilation (UK Surf version)

 

5曲目

SOUTH : Bizarre Love Triangle

 

6曲目

Joy Division : Disorder

 

7曲目

NIRVANA : Aneurysm

 

暗闇に響き渡る「我が人生の集大成」の如くドス黒い怨念のこもった曲達を聴きながら、どうしても色々な事を思い出しちまう。ああ、もしも気分にメーターみたいなもんがついてるならば、今そのメーターはとっくに極限までロウの方に振り切れちまってるな、と思う。昔から、落ち込んだ時は落ち込みの淵の淵にまでとことん浸る性格で、それが俺の人生が一向に好転しない原因なんじゃないかと、思い出す。まるで俺は、ヘロイン・ジャンキーのようだ。

 

8曲目

Velvet Underground :  Heroin

ではなくて、Jesus

 

9曲目

Johnny Thunders : Sad Vacation

 

10曲目

The Replacements : Buck Hill

 

ああ、どうして俺は、プレイリストにテイラー・スウィフトなんかを普通にぶっ込める人間になれなかったのだろうか。

昔、女の子が部屋に遊びにきた。大学でも目立っていて、男共にやたら人気がある子だった。彼女の方から急に押し掛けるように、俺の部屋に来た。

俺の散らかり放題の部屋にいる彼女は、なんだか異世界から迷いこんだ生物のような存在に見えた。そんな異世界の生物が、普段は絶対に見せないような歪みきった顔で「なんか、この曲暗いね」と言った。俺は構わずに、当時「我が人生のサウンドトラック」ってくらいに大好きだったギャラクシー500のON FIREをエンドレスで流し続けた。異世界の生物は、すぐに俺の世界を去った。

 

11曲目

Galaxie500 : Ceremony

 

12曲目

Lou Reed : Walk on the WILD SIDE

 

13曲目

The Smiths : There Is The Light That Never Goes Out

 

突然、俺は走った。暗闇の向こうに小さな灯りが見えたからだ。コンビニだ!コンビニの灯りを目指して、俺は全力で走り続けた。だのに、灯りにはとうてい追いつかない。走れば走るほど、灯りは遠ざかっていく。なんでだ?いったいいつまで走ればいいんだ?教えてくれよ、モリッシー

ふと、俺が目指しているのは灯りなんかではなく、穴である事に気づく。あれは穴だ!小さな小さな穴だ。俺がずっと目指していたものがちっさい穴だとわかり、腹の底からおかしさが湧き上がってきた。俺は構わず感情を爆発させ、大爆笑した。

道横の茂みの奥から、ギャラクシー500のメンバーがヌッと出てきて、拍手をしながら俺に近づいてきた。俺は、ギャラクシー500のメンバーと肩を組んで、一緒に大声で笑いあった。

 

 

オン・ファイア(紙ジャケット仕様)

オン・ファイア(紙ジャケット仕様)

 

 



 

サンドバッグと外出着

A面

 

また朝っぱらから、ベッドの中の彼女は、ゴソゴソと蠢きだしてスマホをポチポチといじっている。決まって朝の四時だぜ。

 

「ねえ、スマホで寝たきり老人の面倒でも見てるの?」

 

「違う、違う(笑)。ちょっとしたアルバイトなの。ほら、よく占いのサイトとかで、今日のラッキーアイテムとかラッキーカラーとかあるじゃない?あれを考えてるの」

 

「え?お前、占い師だったの?」

 

「まさか」

 

「どういうこと?」

 

「占いの方は、本職の占い師さんが書いてるんだけど、あのラッキーアイテムとかは、私が付け足しで書いてるの」

 

「ええーー!?付け足し?どうやって?」

 

「テキトーに(笑)。 ローテーションで(笑)」

 

「ローテーションかい!って、・・・マジか」

 

「マジ。毎日、朝早い作業なんだけど、結構いいお金になるんだ」

 

「へ〜」

 

「でも最近、ネタが無くて困ってるの。なんかいいネタある?」

 

「タピオカとか?」

 

「あ!そういうのがいいんだ。世間で流行ってるやつ。タピオカはちょっとあざとすぎるけど」

 

「ハハハ。じゃあ、キングクリムゾンのクリムゾンキングの宮殿とか」

 

「あ、そういうマニアックなやつはNG」

 

クリムゾンキングの宮殿はめちゃくちゃメジャーだろ(英国で)!とちょっとイラッとするが、イラを飲み込む。

 

「サンバイザーとかどう?」

 

「あ、いいかも。サンバイザー、オシャレだよね」

 

「トートバック」

 

「あ、それもいいな。今日のラッキーアイテムは、サンバイザーとトートバック、と」

 

「最近さ、ジョニ・ミッチェルのブルーってアルバムばかり聴いてんだよ」

 

「ラッキーカラーは、青、と」

 

「・・・。もう少し寝るわ」

 

B面

 

いらっしゃいませ〜

前のテーブルの予約席が埋まる。

あの予約席、いったいどんな人が来るのかなと少しだけ注目して見ていたが、普通のザ・サラリーマンって感じの男が1人。続いてジ・OLって感じの地味な女性が現れ、ザ・サラリーマンの隣に座りやがる。

出た、4人掛けの四角テーブルの四辺の内の一辺だけ占有座り。ザ・地味カップルのくせにラブラブがすぎるだろと呆れるが、数分後にめちゃくちゃいい女風の細身で長身のスタイルのいい女性が1人現れ、2人の対辺に座った。

こいつら、いったいどんな話をするのかな?

気になったので、さっきから俺の前の席で「会社のグチがバーストして止まらない状態」の同僚の話をオフにして、その先のテーブルの話の方に聞き耳を立てる。
どうやらザ・ラブラブ・カップルの方は新婚夫婦らしく、まだ独身のいい女風の相談に乗っている模様。


「相手に求めるものが高いのよ」

 

「結婚っていいもんだよ」

 

「耐える事が愛」

 

だとか、まあ、定番の独身(彼氏無し)にはキツ〜イ台詞の集中砲火を浴びせている。

いい女風は笑って、「大丈夫、私、1人の方が楽なんだよね」と、返しているが、相当に辛そうだ。さっきからずっとハイペースでマティーニの注文が止まらない。

 

相変わらず「会社のグチがバーストして止まらない状態」の同僚にテキトーに相槌をうちつつ砂肝をギリギリと噛んでいると、前のテーブルの3人が会計を終え、立ち上がった。

いい女風がおもむろに小脇に抱えたトートバッグからサンバイザーを出して、被った。

そのムーブメントは、俺の脳内でスローモーションでリプレイされる。

 

サ ン バ イ ザ ー を 出 し て か ぶ っ た

 

嘘だろ?俺も今日、サンバイザーとトートバッグ。運命だよ。俺は席を立ち、自分のトートバッグからサンバイザーを出して、急いで頭に被って、居酒屋の急階段を転がるように駆け降りて、いい女風の後を追う。

 

「そこのサンバイザーの人、ちょっと待って!」

 

振り向いた彼女は、ジョニ・ミッチェル

え?ジョニ・ミッチェル?なんでここにいるの?

ジョニ、ちっさい声でなんか英語で話してるけど、まったくわからない。

僕は、「アイム・ユア・ファン」という訳のわからない英語を連発し、被っていたサンバイザーの庇の部分にサインをもらった。

 

今日はラッキーだな。

 

Blue

Blue

  • アーティスト:Mitchell, Joni
  • 発売日: 1994/10/26
  • メディア: CD
 

 

 

ラム・ジャム

俺の方からしばらく連絡してなかったもんで、映画と音楽にまで愛想つかされて、音信不通の自然消滅さ。

俺の残り少ない人生で、あと何本の映画が見れるかな。

 

知ってるかい?Amazonプライムって無料で映画が見れるんだぜ。でも、あいにく俺が見たい映画はみんな有料なんだよ。クソったれが。

 

スプリングスティーンの映画が公開されるんだってさ。なになに、正確には「スプリングスティーンの音楽で人生が変わる奴」の映画か。そういえば、そんな奴、俺も一人だけ知ってるよ。

 

スプリングスティーンについては、俺には語る資格が無いんだ。なぜなら、俺なんかよりもスプリングスティーンについて遥かに詳しい奴を一人だけ知ってるからな。

 

そうだ!

ずっと見れなかったあの映画を見ようか。2008年公開。12年前か。なんと、Amazonプライムでひっそりと無料で見れるんだぜ。そういえば、あいつ、ミッキー・ロークも好きだったよな。

 

カミさんとガキを寝かしつけ、夜中に暗い部屋でテレビをつける。

レスラー (字幕版)

レスラー (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

正直、グッときちまった。確か、監督、π撮った奴だよな。

 

主役のレスラーのモデルは、ジェイク・ロバーツだとかハルク・ホーガンだとか色々言われてるけど、俺が思うに、おそらくテリー・ファンクがモデルだろう。

プロレスラーはよく「引退しては復帰、また引退しては復帰」を繰り返す。その理由は、「やっぱりプロレスしかできない」という不器用さからなんだ。

この映画でも、プロレスしかできない男、プロレスでしか輝けない男の姿を、監督とミッキー・ロークが丁寧に丁寧に描いていく。

そんな不器用なレスラーの姿が、普段の俺の姿と重なり、あいつの姿と重なり、まるでスリーパー・ホールドで締め落とされるが如く、重く重くのしかかってくる。まったく卑怯だぜ。

ハートロッカーとかランボーとか、戦場でしか輝けなくなっちまった男の映画のテイストにもどこか似てる。

 

途中、「あ、この映画の舞台、ニュージャージーだな」って気付くシーンがある。アトランティック・ボードウォークさ。あいつに散々見せられたブルース・スプリングスティーンのアルバムの裏ジャケや写真集で見た風景だよ。行った事なんて無い所のはずなのに、まるで何度も行ったかのような気になっちまってる。思わずニヤリとしてしまう。

 

※おっと、こっからは映画の核心に触れるネタバレタイムだぜ。

 

 

引退後のレスラーがなんとかありついた仕事が、スーパーマーケットのお惣菜係ってのがリアルで泣ける。

プライドを捨ててずっと我慢して耐えていたが、無慈悲な客から受ける屈辱の仕打ちの連続に遂にブチ切れて、大流血しながらパートを辞める。人生で一度は、こういう辞め方したいよな〜。レスラーが流血して血を見た瞬間に興奮しまくる描写とか、本当にリアルな描写で泣けるぜ。

ここから、映画はクライマックスへと一気に突き進んでいく。

 

まず、あっさりと引退を撤回する。このアッサリ感っつうか、レスラーにとっての「引退」の2文字の持つ意味のペラッペラの軽さが、本当にリアルで泣ける。

そして、ずっと対戦を望んでいたかつてのライバルとのリバイバル・ファイトを受ける。このライバルのモデルは、いわずもがなタイガージェット・シンかザ・シークといった所だ。こいつが引退後、実業家として大成功しているところが、本当にリアル。

 

そして、ちょっとだけいい感じで恋人になれそうな関係だったのに、結局ヤンチャしてフラれてしまった年増のストリッパー(この年増のストリッパーの私服のセンスが、絶妙にリアルで泣ける)に、最後のリングに立つ事を告げる。心臓病でもうリングには立てない体だっていうのによお!

 

で、試合前に年増のストリッパーが控え室まで試合に出るのを止めに来るんだな(この時に彼女が着てる私服も、絶妙のセンスで本当に泣ける)。そんなストリッパーの制止を背なで断ち切り、戦いのリングへと向かう。男だぜ!んで、花道の入場BGMは、ガンズン・ローゼズのスウィート・チャイルド・オブ・マインだよ!!これがダサ・カッコよくてハマりすぎ!カッコよすぎるぜえ〜い!

 

試合の方はロートル感満載で、グダグダなのが妙にリアル。観戦しているプロレス・ファンが、全てをわかった上で熱狂的に盛り上げるのも、本当にリアル。監督、インディー・プロレスを本当にわかってらっしゃる。

 

で、やっぱり心臓が悪くてヘロヘロになっちまうんだが、なんとかフィニッシュ・ホールドの段階までもっていく。フィニッシュ・ホールドは、コーナーポスト最上段からのダイビング・ヘッドバッドだ。(技の名前は、ラム・ジャム!)

 

で、ラム・ジャムに行く為にコーナーを登る前に、チラッとストリッパーの方を見やるのだが、ストリッパーの姿がもうそこには無いってのが、最高にリアルで悲しすぎるんだな。

 

で、全てを吹っ切って、ラム・ジャムを飛ぶ前のもんのすごく幸せそうな顔のアップで暗転。

 

その後だよ!

おい!

その後!

ニュージャージーの風景が壮大な前フリだと気付く。

ここでボスの、ブルース・スプリングスティーンの歌声が流れ出すんだよ!うおーー!涙が止まらん。

 



 

レスラー:ブルース・スプリングスティーン

 

馬鹿のひとつ覚えのポニーが、荒野を走っているのを見た事あるかい?

あるって?そうか。そいつは俺なんだよ。

 

ビッコを引いた犬が、トボトボと歩いているのを見た事あるかい?

あるって?そうか。そいつも俺だよ。

 

俺が見たけれゃ、俺はどこにだって行くぜ。

失うものはもう何も無い。

流血すりゃあ、大盛り上がりさ。

 

なあ、こんなもんで満足してくれたかい?

本当にこれで満足してくれたかい?

 

ボロッボロのカカシが突っ立ってるのを見た事があるかい?

あるって?そうか。実はそいつは俺なんだ。

片腕の男がナックルパートで殴りかかるのを見た事があるかい?

あるって?そうか。そいつも俺だよ。

 

俺が見たけれゃ、どこにだって行くぜ。

失うものはもう何も無い。

流血すりゃあ、大盛り上がりさ。

 

なあ、こんなもんで満足してくれたかい?

本当にこれで満足してくれたかい?

 

お情けなんかゴメンだね。

寝ちまえば、そこが俺の家になるってな。

この傷はフェイクなんかじゃねえ。リアルだぜ。

 

ビッコを引いた男が、コーナーポスト最上段に上がるのを見た事があるかい?

あるって?そうか。そいつは俺だ。

 

 

ああ、俺は昨日からずっと、エンドレスでこの曲を再生し続けているよ。

お前が愛した、レーシング・イン・ザ・ストリートとか、リバー系のブルース・スプリングスティーンの曲だよ。最高。何度も言うぜ。最高。

 

男達に、本当におすすめの映画です。

必要以上にグッと入ってきちまうのが、場合によっては辛いけどな。

Amazonプライム入ってる男達、無料なんで是非。

 

酒と泪と男とアスと

思えば、酒に憧れ続けた10代さ。

 

趣味は?という問いに「酒」と即答した20代。ジャック・ダニエルのボトルを枕に寝転んだあの夜。

 

夜明けにしょっぱいアスファルトの表面を舐めながら、あれ?俺、本当に酒好きなんだろうかと目が霞んだ30代。

 

ああ、あっちにいた誘う女の方じゃなくて、やけに色白の便器の方を抱きながら、俺、酒、好きじゃねぇわと吐き捨てた40代。

 

酒が嫌いだ。旨いという感覚がもう無いんだ。飲みたくもねえよ。酒だけに避けてるって?うまくもなんともねえな。

 

やがて酒は、俺からフェードアウトしていった。酒からの連絡が途絶え、こっちからも連絡しねえもんだから、いつの間にかお互いの記憶から消去されちった。自然消滅だ。アルコールだけにって?うまくもなんともねえな。

 

ある日、上司から酒に誘われた。

「いや、スミマセン。俺、酒は、しばらくやってないんで」

 

「何言ってんだよ。今日は大事な祝い事だろ。今日酒飲まなくてどうするよ」

 

「いや、酒は勘弁して下さい」

 

「いいから、いいから。たまには俺の酒に付き合えよ」

 

強引な上司の誘いを断りきれず、渋々ついて行く。小さなバーだ。

カウンターに坐ると、そこには酒がいた。

 

「久しぶり」

酒はしっとりと俺に語りかけてきやがる

 

「ああ」

声がかすれてらあ

 

「元気だった?」

酒がしっとりと語りかける

 

「まあ、ボチボチさ」

喉が濡れて声が湿り気を帯びる。熱いな

 

「少し太った?」

酒がしっとりと絡みつく

 

「まあね。あんたは変わってないな」

焼けるように熱い

 

「そうかしら?でも、嬉しいわ」

しっとり

 

「最近は、コロナで大変なんじゃないか?」

今年に入って何回目だ、このセリフ

 

「そうね。最近は、家が多いわね」

しっとり

 

「家か」

もうちょっと気のきいた返しはできないものか

 

「ねえ、ツマミは元気?」

 

「ああ、元気だよ。いつも君に会いたがってる」

 

「うふふ。たまには誘ってほしいな。以前みたいに」

 

「・・・」

 

「あ、ゴメンね」

 

「謝まる事はねえよ」

 

「ねえ、乾杯しない」

 

「何に?」

 

「再会を祝して」

 

「いや、今日は・・・」

 

「わかってる。でも、お願い、乾杯だけさせて。私、あなたの事が」

 

酒が最後まで言う前に、俺は一気に酒を飲み干した。

グラスに残った氷達が、この世で一番寂しい音を立てて転がった。