続・私立デフジャム高校ヒップホップ部

クラスの男子、最低だし

みなわたしの事、悪く言うのまるで仕事

どうせデブブス暗いよ、私は心でクライよ

もう嫌ヨこんな人生、そろそろしたいヨ転生

 「あんた、結構、ラップの才能あるやん」

え?!しまった!声に出してもうてた!振り向くと、そこにはシャアザク・・・じゃない、大阪から転校してきた玉井君が立っていた。玉井君は、とにかく赤い。いつも全身赤い服装で目立っていた。登校初日は、首にゴールドのチェーンをジャラジャラぶら下げていた。そのチェーンは、直ぐに体育教師に没収されていた。

「あんた、よおいじめられてるな」

「え?」

「いつも見てるで」

「はあ」

「あんた、破壊力抜群なブスやもんな」

「はあ?」

「ほんでまたデブやし、暗いし、いいとこ何も無いなあ」

「・・・。」

「でも、さっきのラップは、かなりイけてたで」

「ラップ?」

「よかったら、これ見てや」

玉井君が赤いジャージのポケットから取り出したのはVHSのビデオテープで、タイトルの所には汚い字で「よお!MTVラップ。ソルトンペッパーの巻」となぐり書きしてあった。

 

家に帰って見て、驚いた。黒人の女性3人組が、早口言葉で歌って踊って躍動している姿。これが、ラップか・・・。

 

翌日、

「どやった?」

「・・・すごくカッコよかった。」

「せやろ。こいつらブスでデブだけど、もの凄くイキイキして躍動してるやろ。あんたもこうならな、アカン」

「・・・うん」

「とりあえず、今度開かれる学園祭のバンドコンテスト、あれに出たらええ」

「え?玉井君と?」

「(笑)。いや俺はな、いまLL COOLJのアイニージュラブって曲、めちゃめちゃ練習してんねん。だからあんたとは出られへん。でもな、今、アイニージュラブ練習してるおかげで、俺、めちゃめちゃ優しい気持ちモードになってんねん。せやから、ちょうどいいブス、もう二匹見つけといたから、そいつらとトリオ組んで出たらええ」

玉井君が連れてきたのは、木村さんと笹本さんという気怠そうなデブ2人で、どう見ても高校生には見えなかった。「 ジャージ着れば大丈夫や」と、玉井君は言った。

その日から私達は、ソルトンペッパーのPUSH ITを猛練習した。バックトラックは、玉井君の大阪の知り合いのDJエトゥーって人が特別に作ってくれた。ラップの部分は、私がオリジナルの日本語ラップを書いた。

「俺な、今、ごっつい優しい気持ちモードやねん」と、ダンスの振り付けは玉井君が考えてくれた。それは、お股の前で手をヒラヒラさせて高速で腰を前後に振りまくる振り付けだった。「ソルトンペッパーみたいやで」と言われ、一生懸命練習した。

 

いよいよ、ステージ当日を迎えた。バックステージで、集中する為に目を閉じると、今までの人生の辛い事ばかりが浮かんできた。いい事なんか何一つ無かった。今日で、私の人生は変わる。今日から、私は生まれ変わるんだ!

 

「それでは次のステージは、塩コショーwith豚のしょうが焼きで、PUSH ITです!」司会のガナリに合わせて、私達はステージに勢いよく飛び出した。会場がザワザワした。

あ〜、プッシー、プッシー!プッシー・グ〜!

玉井君の振り付けで歌い出す。

と、会場の奥から米国帰りの堅物英語教師ミヤザワが、両手でバッテンを作りながら鬼の形相で客席に乱入してきた。

 

そこからどうなったかは、記憶が飛んでいてあまり覚えていない。ただ、次の日から私を嘲笑するアダ名群に新たに「プッシー」という単語が加えられた。

 

 

 

私立デフジャム高校ヒップホップ部

よお、よお、よお。ラジオから流れてきたランDMCのウォークジスウェイには、まったく度肝を抜かれたよ。とにかく、今まで生きててこんなにカッコイイ音楽は聞いた事なかったからよお。ラップっつうの?ラップっつったら俺、ワム・ラップ一択だったからね。あ?サランラップって言うと思った?

で、ウォークジスウェイのイントロの、「チーたったラッタッタ、チーたったズビズビズビズビ」の「ズビズビズビズビ」の所、どうやって音出してんだ!って大騒ぎになったよね。何よ?あのノイズっぽいかっこいい音は。

で、すぐレンタルレコード屋に借りに行ったのよ。びっくりしたよ。ランDMCって黒人なのね。ラップも歌も両方うめ〜な〜って。そんで、レコードジャケットがさあ、ガタイのデカイ黒人の三人組が写ってて、真ん中のメガネの人が「行くな、行くな」って他の2人を制止してる写真なんだよね。まるで両脇の2人が誰かぶん殴りに行こうとしてるのを、真ん中のマジメなメガネの人が止めてる感じ。だけど、足元見ると全員アディダスの靴紐外して履いてんだよね。何これ?カッコいいな!っつって、俺もたまたま持ってたスタンスミスの靴紐早速外したからね。でも、履きづらくて仕方ねぇんだよ。ちょっと歩くと脱げちまう。でもランDMCもやってるからなっつって、脱げないようにゆっくりゆっくり我慢して歩いてるよ。

んで、大阪から転校してきた玉井君が、赤いジャージにカンガルーのロゴマークが入った赤い帽子被って昔のデカいラジカセ肩で担いで歩いてたから、「玉井君、何よ、その格好は?」って聞いたら、「L.L.COOL Jだよ」っつうから、何それ?ってなって、今一番イケてるラッパーだって。俺が、「イケてるラッパーってランDMCでしょ?」って言ったら、とりあえずこれ聞けっつって、持ってたデカいラジカセでロック・ザ・ベルって曲を聞かせてくれて、これがカッコよくてぶっ飛んだね。で、「このランDMCのウォークジスエイのズビズビズビズビと同じ、キュワキュワッって音って何なの?」って聞いたら、玉井君はヘラヘラ笑って「スクラッチやね」と言った。んで、「明日のベストヒットUSAでランDMCのビデオ流れるから、見〜や。最初にスクラッチの映像出てくるから見逃したらアカンで」って教えてくれた。

土曜の夜はオヤジがプロ野球ニュースを見るから、VHSの3倍モードでタイマー予約録画しておいたベストヒットUSAを、翌日、いいとも特大号の嵐山光三郎の枯れたメッセージが終わった後に、ドキドキしながらチェックしたよ。再生して、また驚いたね。ランDMCのメンバーに白人いるのね。このハスキーな声、この人が歌ってたのか。ヒョロヒョロに細くてカッコいいな。玉井君が教えてくれたスクラッチってやつが、レコードを擦って音を出してるって事実よりも、ランDMCのボーカルとギターの人がやたらカッコイイ事に衝撃を受けたんだよ。

 次の日、玉井君に話したら、あれはエアロスミスっていうバンドのオッサン達で、ランDMCのメンバーではない事、ヒップホップのアーティストはサンプリングっつって昔のレコードから音源をかっぱらってるんやでって教えてくれた。玉井君、色々知っててスゲーな〜。俺、FMファンって雑誌の鮎川誠さんのコラムからしか洋楽の情報取れてないからね。

玉井君はヘラヘラ笑いながら、「ヒップホップに興味があるならこれ見てや」って、タイトルの所に「ワイルドスタイル」って汚い字でなぐり書きしてあるVHSを貸してくれた。

 家に帰って再生して、ぶっ飛んだ。荒れた画面の中、金髪のオネーサンと馬がXXXXしている映像が飛び込んできたからね。そっと停止ボタンを押してテープを巻き戻した。テープが巻き戻ってキュルキュルいってる音がスクラッチの音みたいで、この音こそが諸行無常の響きっつうのかな・・・ってシミジミしちゃったよね。んで、エアロスミスのレコードでも借りに行こうかと外に出ようとしたら、スニーカーが思ったより足ごたえがなくて、前につんのめりに転んじゃったよね。やっぱり紐が無いスニーカーは歩きづらいわ。よお、よお、よお。

 

 

 

 

https://itunes.apple.com/jp/album/rock-the-bells/872741371?i=872741433&uo=4



 

 

バーにたかるハエ

夜、久しぶりに酒場へと繰り出す。酒場のネオンサインが好きだ。それが古いネオンなら尚更いい。ピンクや青に妖しく光るネオンに引き寄せられて、まるで街灯の光に飛び込む小虫のようにフラフラとストリートを行ったり来たり。

ん?なんか映画のオープニングみたいじゃないか。俺は映画監督になった気分で、このシーンに合う音楽を考える。あ、あの曲がいいな!なんて曲だったかな・・・?えっと、確か・・・ブッカーT&MG'S!ヒップハガーだ。ダルい響きのシンセに合わせ、カメラは観客目線で飲み屋を物色する。

 

と、興奮気味にここまで考えて、それが、ミッキー・ローク主演のバーフライのオープニングと全く同じだという事に気付く。だが、バーフライの内容は、すっかり忘れてしまっている。確か、原作がチャールズ・ブコウスキーで、ブコウスキーが脚本も書いてる。おまけにブコウスキー本人も出てるときた。もう、ブコウスキーの名前しか残らねえ。

 

誰が言ったか知らないが、「全ての音は鳴らされてしまった」ってセリフ。もしかしたら、全てのシーンも、もう撮られちまっているのかもしれないな。

 

検索したら、出てきた。いい時代になったな。

 

で、エンディングも見てくれ。物語が終わった後も、再びバーを探して彷徨い歩くのさ。永遠にね。

 

 

シーン

朝が寒い。早朝の出張はコタえるよ。駅から離れた駐車場に車を停め、ドアをバタンと閉める。寒い。背中を丸めて歩き出す。吐く息が白い。誰もいないストリート。朝焼けでオレンジ色に染まってらあ。踵が奏でるコツコツとした歩み音。

ん?なんか、映画のオープニングみたいじゃないか。俺は映画監督になった気分で、このシーンに合う音楽を考える。あ、あの曲がいいな!なんて曲だったかな・・・?えっと、確か・・・ランディ・クロフォード!ストリートライフだ!聴いていると、なにかが始まりそうな、そんなワクワクした気持ちになる最高のオープニング曲。カメラは、引きで俺の歩いている姿を撮る。あ!最初はヘリコプターからの空撮がいいな。それがだんだんズームしていって、歩いている俺のシーンに繋がる。いいぞ!で、この人っ子一人いない寂れた街を歩く事で、街の腐敗も表現できる。ストリート・ラーイフ!(ホーン・セクション)パラパ、ッパー!

 

と、興奮気味にここまで考えて、それが、バート・レイノルズ主演のシャーキーズ・マシーンのオープニングと全く同じだという事に気付く。だが、シャーキーズ・マシーンの内容は、すっかり忘れてしまっている。確か、レイノルズがシャーキーっていう名前のデカ(刑事)で・・・シャーキーのマシーンって、結局、何の事だったかな?確か、チン◯の事ではなかったよな。

 

誰が言ったか知らないが、「全ての音は鳴らされてしまった」ってセリフ。もしかしたら、全てのシーンも、もう撮られちまっているのかもしれないな。

 

 ためしに検索したら、出てきた。いい時代になったもんだ。


Sharky's Machine Opening

シャワーミー、シャワーユー

シャワーが好きだ。休日は、気分転換で1日に何回も浴びてる。会社にも個人用のシャワーがあればなぁって思う。シャワーを頻繁に浴びはじめたのは、中学生の時からだ。ああ、認めるよ。間違いなく映画「トップガン」の影響である。

 

田舎の中学生にとって、1984年公開の「フットルース」きっかけでパンパンに膨れ上がったアメリカン・カルチャーへの飢餓感は、1986年公開の「トップガン」で大爆発した。(実は、1984年は俺の好きなスカーフェイスなんかも公開されているのだが、残念ながら田舎の中学には、パチーノとチェーンソーの共演という最高にイカれた情報は、全く伝わって来なかった)。

僕は買わなかったけど、友達のほとんどは映画館を出たその足で、洋品店でニセモノのMA-1を買って着込んでいた。

僕は、トム・クルーズ演じる主人公マーベリックが頻繁にシャワーを浴びる事に影響を受けた。思えば、我が自宅にシャワーが導入されたばかりという事もあり、シャワーにハマる理由は整っていた。んで、もの凄いボイラーの音を響かせて、祖母に怒られながら頻繁にシャワーを浴びていた。

ヤンキーのM君が、「あれ、多分、マーベリック、シャワーで抜いてんだな」と教えてくれたけど、当時、純朴な僕は”抜く”の意味がわからず、お風呂の栓の事だとずっと勘違いしていた。

あとは、美人の女性教官と付き合うってのも憧れたよね。トム・クルーズがライチャス・ブラザースの「ふられた気持ち」をアカペラで不器用に歌いながら女教官を口説くシーンがあって、あれを、(今、思えば)あまり美人じゃない音楽の先生相手に、トム・クルーズの真似したのも、よき思い出だな。

さあ、シャワーでも浴びるか。風呂の栓は、抜かないぜ。