今夜、ハードロック・カフェにて

「終わったね、フジロック

「終わりましたね」

「やっぱしCURE最高だったな〜」

「え?先輩、行ったんですか?」

「配信で見た」

「配信、最高ですよね」

「配信最高!」

「ちょっと待ってください。先輩のその意見について、僕、一言言わせてもらってもいいですか」

「何?」

「人生で一度もフジロックに行った事の無いフジロック童貞の先輩が見る配信と、何度か行った経験がある僕が見る配信とでは、配信観賞レベルに大きな差があるって事です」

「配信観賞レベル?どういうこと?」

「僕は、フジロックの会場の雰囲気とか知ってるんで、配信を見ていても、その過去に会場に行った時の記憶が配信映像に更に上乗せされて再生されているんです」

「・・・。言ってる事、よくわかんない」

「例えば、CUREにしても、あの雄大なグリーンステージの状況と、日曜トリの「あーもうこれで最後だ」っていうどこか切ないあの会場の雰囲気をわかった上で見てるんです。いわば、自分がフジロックの会場に居る状態を脳内で再現して見てるんです。まあ、軽くトリップできてるわけですよ。例えばフィールズ・オブ・ヘブンからの配信であれば、ヘブンのあの多幸感溢れる会場の雰囲気を再現した上で映像を見て、トリップしているわけです」

「へ〜。会場がイスだらけだとか、ハンパない大雨が突然降ってきたとか、トイレに行きたいけど混んでて汚いからやだなぁとか、ビトビト汗まみれのTシャツ着たヤツに横から身体ガンガンぶつけられてる状況とかを思い出して、トリップしてるんだ」

「いや、そういったストレス部分は完全に消去され、美しく修正された環境で脳内再生されてます」

「なんか、修正がバキバキかかる最近のプリクラ写真みたいじゃないか」

「そう!まさに例えるならばあんな感じです」

「そんなのフジロックじゃないだろ!過酷な環境で現地で生で見て、肌で音楽を感じてこそのフジロックだろ!」

「あんたフジロック行った事無いでしょーが!」

「・・・来年は8月だってな」

「どうせならいいメンツ呼んでほしいですね。先輩は誰に来てほしいですか」

モリッシー

モリッシーフジロック出禁でしょ」

「じゃあジーザス&メリーチェインかな。後輩君は?」

「これです」

「おお!いつの間にリクエストしてたんや!」

「やっぱりポール・ウェスターバーグですね。死ぬまでに一度はライブ観たいです」

「おお。ホワイト・ステージあたりで見たいね」

「あんた、ホワイト・ステージ行った事無いでしょーが!」

These Are the Days

These Are the Days

 

 

 

デカいテレビの生きる道

デカい家を借りて住んでいる。残念ながら自慢では無いんだ。家は相当ボロい。昭和の香りがぷんぷんする家だ。息子の友達が家に遊びに来て、「や〜い、お前ん家、おっばけや〜しき!」って言いやがった。トトロの見すぎなんだよ、クソガキが。

仕方ないので、クソデカいテレビを買って無駄に広いリビングの真ん中に据えた。

が、現在の俺はあまりテレビを見ない。普段は、息子達のYouTubeとゲーム画面しか映していない。可愛そうなテレビだな。本当は世界遺産とかUFCとかWWF(現在はWWE)を見なきゃいけないんだろうけどな。すまんな。

 

んで、今日、たまたま1人で留守番するチャンスが訪れたんですよ。んで、突然閃いちゃったんですよ。あ!フジロック!配信!!    わ〜い!

CAKEだよ!CAKE見れるよ!思い返せば2005年フジロック、あの時は苗場で風邪ひいてダウンしてCAKE見れなかったんだよな。よし、ビール買いに行くぞ!ハイネケンだ!ハイネケンハイネケン、どこにも売ってない!あー、しゃーない、バドでいいや、バド、バド。あ、CAKE間に合った。うおー、ロッキーのテーマきたー!(CAKEのSEはロッキーのテーマ。ガチな方のヤツじゃなくて、Vince Di Colaの「戦い」ってヤツね。あれを延々と流した後にCAKEは登場してくる。会場にいる皆さんはだいたいポカーンとなる)

あー、会場に行きてええええ。なんで今、俺、苗場にいないんだ。

それにしても、デカいテレビ最高じゃー!

(中略)

キターーー!ショートスカート!!うおーーー!ナナナナ・ナナ、ナナナナナーナ、ナナナナ・ナナ、ナナナナナーナ!ナナナナ・ナナ、ナナナナナーナ!

「ただいまー!       え?え?なんでポンチョ着てビールたくさん飲んでるの?え?なんで?なんで部屋の中でポンチョ着てこんなにたくさんのビールを飲み散らかしてナナナナナーナナ言って騒いでるの?え?床がビシャビシャだけど、これ、汗?」

 

それにしても、デカいテレビってヤツは最高だ。

Short Skirt, Long Jacket

Short Skirt, Long Jacket

 

今日が私の

車から急に異音が鳴り出した。信号待ちで停止中に、キューーッと音がする。

何これ?オナラ?

笑)車が泣いてんだよ

やだ

この音がいいネって

言わない。言うわけない。

また泣いてるよ

なんだかさ、サンラのサックスの音に似てる気がする

何?サンラって?

知らないならいい。説明めんどくさい

サンラ記念日だ

ギャハハ。うっさい

 

あまりに異音が酷いので、車の後ろのトランクを開けてみた。そこにはサックスを抱えたサンラが入っていた。サンラと目があった。僕はトランクをそっと閉めた。

Space Is the Place (Live In France)

Space Is the Place (Live In France)

  • Sun Ra and His Arkestra & Sun Ra
  • ジャズ
  • ¥250



 

喫茶店

彼女の実家は、喫茶店を営んでいた。

「喫茶店なんて、タッチみたいだな」

「タッチって何?」

「知らないんなら、いいや。ジャズ喫茶とかなの?」

「そんなカッコいいのじゃないよ。純喫茶っていうのかな?普通の喫茶店だよ」

「コーヒーは水出し?」

「そう。何でわかったの」

「店の名前は?」

「え?なんだか恥ずかしいな」

「いいから教えてよ。まさか、南風?」

「南風?違うよ。えっとね・・・、ひらがなで、〝ふらふうぷ〝っていうの」

「可愛い名前だね」

「そう?ありがとう」

「たまにエプロンかけて店手伝っちゃったりするの?」

「うん。こう見えても、結構、常連さん達に人気あるんだから」

「ますますタッチやな」

「だから、タッチってな〜に?」

「今度、行ってみたいな」

「え〜、普通の喫茶店だよ」

 

遠距離恋愛だった。今思えば、俺にしては珍しく「真剣交際」ってやつだったのかな。両親への挨拶も兼ねて、彼女とふらふうぷを訪れた。

カランコロンコロン

「いらっしゃい」

マスターは、俺の予想に反して、細身の長身で、髪をオールバックに撫で付け、白いシャツに黒の蝶ネクタイを締めていた。思ったよりキッチリした店だな。彼女とカウンターに座る。マスターは不機嫌そうに、

「お前が男を連れてくるのは初めてだな」とボソっと言った。ブレンド・コーヒーを注文する。

「あんた、福島県だってね。いい所なんだろうけど、うちの娘は家から離れた事が無くてね」

「ヤダ、お父さん何言ってるのよ」

「大事な事だろ。この店もね、小さい店だけど、将来的には娘に譲ろうと決めてるんだよ」

俺は長男だった。出会って直ぐに内角の直球をグイグイ投げ込んでくる蝶ネクタイの印象は最悪だった。娘がよほど可愛いんだな。早く帰りたい。やっぱ来るんじゃなかった。俺はクソ苦いコーヒーを無理矢理空にすると、席を立った。「お代はいいよ」と言われたが、意地でも払った。

カランコロンコロン

 

あれから何年経っただろうか。たまたま仕事で、あの喫茶店のある駅を訪れた。懐かしいな。まだやってるだろうか、ふらふうぷは。御多分に洩れず駅にはスターバックスがある。このご時世、純喫茶の経営は厳しかろうな。果たして彼女があの店を継いでるのだろうか。興味本位で、店を訪れる事にした。あった!ふらふうぷ。名前も外観もあの時と全く変わってねえや。

カランコロンコロン

「いらっしゃい」

いた。細身の長身。髪をオールバックに撫で付け、白いシャツに黒の蝶ネクタイ。髪は白くなっていた。顔のシワは増え、白いヒゲも生やしていた。店を見渡したが、彼女はいなかった。彼女がいる雰囲気も、俺には微塵も感じ取れなかった。彼女はいない。俺は、あの時座ったカウンターの同じ席に腰掛けて、ブレンド・コーヒーを注文した。客が俺しかいなかったせいか、蝶ネクタイは俺に気さくに話しかけてきた。話題は、日本代表の事や、東京オリンピックのチケットの事やらだった。俺はたまに微笑みながら、テキトーに相槌して聞いていた。すると、蝶ネクタイが唐突に「あんた、どこかで見た事あるね」と言った。一瞬ドキッとしたが、「いやあ、自分、よくいる顔ですから」と俺は返した。出てきたブレンド・コーヒーは、あの時と同じようにクソ苦かった。彼女との色々な事を思い返しながら、そいつを時間をかけてゆっくりと飲み干した。

会計をする時、蝶ネクタイが言った。「わかった!あんた、大谷翔平君に似てるね」

「いやあ、あんまり言われた事無いです」

「いや、絶対、似てるよ。野球やってたのかい?」

野球なんか生まれてこの方やった事無かった。

「・・・まあ、死んだ双子の弟がやってました」と、嘘をついた。

カランコロンカラン

 

ファイトクラブ

あれは確か1990年の話だ。あの日、俺は死にかけた。

彼女も無く、友達も無く、生きる目的も無く、ただストレスと小金だけはやたら持っていた。夜な夜なライブハウスやクラブに出かけて行っては、許容範囲外の酒を喰らい、酔っ払ってフロアを縦横無尽に飛び跳ねる事だけが、俺の唯一の憂さ晴らしだった。

ある日、バイト先のヤスダ先輩から声をかけられた。

「じぶ〜ん(関西の方は、相手のことを何故か自分と呼びかける)、洋楽好きやったよな。ドクター・ジョンって聴くの?」

当時、児島由紀子推しの音楽と米国カレッジ・チャート音楽しか聴いてなかった俺は、正直、ドクター・ジョンなんてまともに聴いたことが無かった。確か、ピーター・バラカンニューオリンズ音楽を紹介する時によく名前を出してたな・・・くらいの印象。かく言うヤスダ先輩も、ボンジョビとかガンズとかモトリークルーがフェイバリットの革パンピチピチLAメタル野郎だったので、ドクター・ジョンなんて知ってるはずが無かった。映画と音楽の知識に関しては知ったかぶり全開人間の俺は、

「ああ、好きですよ。ニューオリンズでしょ。ピーター・バラカンがよく紹介してますよね」

と自分が知っている知識を全部詰め込んで応酬した。

「あ、ほんま。あのな、ライブのチケット余っててな、一緒に行かれへん?」

実は、このヤスダ先輩と俺は、浅からぬ因縁があった。俺がぞっこん惚れていた小柄で可憐なミヨちゃんは、よりによってこの革パンピチピチLAメタル野郎の事が好きになってしまい、反対にヤスダ先輩が長年かけて口説いていたオッパイの大きいエリちゃんは、完全に俺に気があった。ヤスダ先輩と2人で酔っ払うと、大抵、この件で醜い言い争いになった。ライブの場所は大阪。多少の不安はあったが、ヤスダ先輩の友人(屈強な筋肉野郎)も来るという事で、ライブの誘惑には勝てず、OKした。でも、「ドクター・ジョンのライブって暴れられるのかな?」って一瞬思った。が、「ニューオリンズ+大阪=大暴れ」という公式が俺の頭の中で成立していた。

 

会場は確か大阪ブルーノートだったような気がする。普段よく行ってる磔磔や拾得とは違う落ち着いた雰囲気の会場に、嫌な予感がよぎる。客層もアダルト&カップルが多く、どう見ても「ここに暴れに来ました」といったカテゴリーの人種では無い。みんな、ボズ・スキャッグスでも聴きにきたような雰囲気だ。なんじゃーい、ドクター・ジョンってAORなんか?ニューオリンズだろ?レベル・ミュージックなんだろ?(勝手な思い込み)、産婦人科医じゃねーんだぞと、軽く憤る。

とかなんとか憤っているうちに、ドクター・ジョン登場。黒いコートを着ていた気がする。帽子も被っていた気がする。その大きな体でステージ中央に置かれたピアノに座ると、魔法のようにゴキゲンな旋律を奏で出した。が、嫌な予感が的中。客席の反応は、なんか薄い。皆、ワインを傾けてニヤニヤ見てる感じ。おい!今、ドクター・ジョンことマルコム・ジョン・レベナック・ジュニアさんがめちゃくちゃ粋なグルーヴ奏でてるってのに、ニヤついて見てんじゃねえ!今すぐ飛び上がって躍り狂えや!

 

ライブ帰りに立ち寄ったアメ村にあるヤスダ先輩の知り合いのバーで、ショット・ガンを何杯あおっただろうか。そこから全く記憶が無い。

 

中学生の時に、駅伝大会の選手に選ばれた。放課後の練習はハードだったが、選手に選ばれたという恍惚から、毎日、一生懸命走りに打ち込んでいた。今日もこうして走っている。辛いけど、頑張ろう。

って、あれ?ここどこだっけ?茨城県じゃないな。しかも夜だな。あれ、今、俺、どこ走ってんだ?確か、ここ大阪じゃなかったか?いや、大阪なわけがないだろ。大阪だとしたら大変だぞ。これは夢だ、夢なんだ。いいから構わず走り続けろ。

 

朝、目を覚ますと、眼前にはリアルなアスファルトの質感が広がっている。どうやら歩道に突っ伏して寝ていたようだ。え?ここ、どこだ?奇跡的にジーンズの後ろポケットに財布はあったが、お気に入りのアディダスのカントリー(MADE in FRANCEバージョン)が片方脱げて無くなっていた。恐ろしいほどの吐き気。なんとかタクシーを捕まえ、梅田駅まで送ってもらう。

 

阪急電車に乗ったが、強烈な吐き気が止まらない。が、胃の中に吐くものが無いせいか、吐ききれない。途中下車して、牛丼を食べる。米にアルコールを吸収させて、その後に吐くためだ。駅のホームでゲーゲー吐いていると、もの凄い勢いで急行電車が来て首を跳ねられそうになる。俺、一体、何をしているんだ。

次の電車に、たまたまヤスダ先輩が乗っていた。俺を見るなり、「心配してずっと探してたんだぞ、このドアホ!」とめちゃくちゃ怒られた。

車内でヤスダ先輩から昨夜の話を聞いてゾっとした。テキーラで完全に酔っ払った俺は、例によってミヨちゃんの件でヤスダ先輩に絡み始めた。その絡みがあまりに見苦しかったせいか、一緒にいたヤスダ先輩の屈強な友人に胸ぐらを掴まれて凄まれると、俺はシュンと大人しくなった。と、突然、わけのわからない奇声をあげて暴れ出し、全速力で走り出した。その勢いのまま、御堂筋を横断したらしい。車を数台止めたらしい。もの凄いクラクションの音だったらしい。で、そのまま走り続けて消えていったとの事。「死んだ、思ったわ」と革パンピチピチLAメタル野郎は笑った。

 

ドクター・ジョンの訃報を知って、あの時の思い出したくもない夜の事を思い出す事になった。実はずっと、ドクター・ジョンに対しても、なんだか申し訳ないような複雑な感情でいた。

あの日以来、もう二度と記憶を無くす程に酔う事は無い。今後も無いであろう。

Tipitina

Tipitina

  • Dr. John
  • ロック
  • ¥250