ホラ

下の2階に引っ越してきた夫婦、ケンカばっかりしてる。
旦那の野太い怒鳴り声で始まり、奥さんのソプラノ叫び声に続き、赤ちゃんの爆発する泣き声の3重奏。
毎晩毎晩決まって23時だよ。うるさくてねむれやしない。
カミさんが、「あなた、いい加減に注意してきてよ」と俺をうながす。
そりゃぁ、俺だって注意したいさ。でも下の洗濯物の中に柔道着と黒い色のオビが干してあったのを見ちゃったんだよな。
いいよ、いいよ、毎晩ホラー映画を借りてきて見る事にしようよ。
エルム街の悪夢」や「13日の金曜日」なんて続編がいっぱい出てるんだぜ。下の夫婦がいなかったら一生見ないで終わっちゃうところだったぜ。

ある晩、奥さんの「タスケテー、コロサレルー」という絶叫が響き渡った。
今までは、「ヤメテー」だとか、「バカヤロー」だったのが、ハッキリと「殺・さ・れ・る・う・−」と聞こえた。
そしてぱったりと静かになった。
カミさんが、「あなた、ちょっと見てきたほうがいいんじゃない」と言った。
俺はテレビ画面に映る「悪魔のいけにえパート3」を眺めながら、「・・・そうだな」とつぶやいた。
階下におり、おそるおそるインターホンを押してみた。
少しだけドアが開き、赤ちゃんを抱いた目のクリッとした奥さんが現われた。
「何か?」
殴られたような様子も、涙を流した様子も無い。
「あのー、上に住んでる者なんですけど、「助けて」って声が聞こえたので、心配になって見にきたんですけど・・・。」
「何もありませんよ。」
その瞬間、赤ちゃんが「ぶぅー」と満面の笑みを俺に見せた。
俺は部屋に帰って、一時停止していた「悪魔のいけにえパート3」をカミさんと見た。

今では近所のビデオ屋に置いてあるホラー映画を全部見てしまい、ジャンルをコメディ映画にかえた。