P.T.A.はダンステリア

― P.T.A.はダンステリア ―

「もう、あそこのお母さんったら自分勝手で最悪よね」
PTAの会合帰りに決まって立ち寄るファミリーレストラン。今日も毒舌の吉田さんのお母さんが口火を切った。
「そうねぇ」
おとなしい松野君のお母さんと私はいつも聞き役だ。
「それより、聞いて!今日もクレイマーと挨拶しちゃった」
クレイマーってのは剣城君のお父さん。奥さんと離婚して男手一つで子供を育てている。
映画「クレイマー・クレイマー」からこのあだ名がつけられた。
昔、ディスコでならしていたとかで、PTAのお母さん達のちょっとしたアイドルになっている。
「もう、クレイマーに誘われたら、うちの旦那なんかほっぽり出してすぐについていっちゃう」
「いやだわぁ」

ある時、吉田君のお母さん、松野君のお母さんが塾の説明会とかでPTAを欠席した。
今日はファミレスは無しか・・・と廊下を歩いていると、後ろから「佐々木さん」と声を掛けられた。クレイマーだった。
「佐々木さん、方向同じですよね。よかったらタクシー一緒にどうですか」
「そうですね。助かります」
後部座席に並んで座る。広い座席なのに、ぴったりと体を寄せてくる。悪い気はしなかった。
いい匂い。「なんて名前の香水つけてらっしゃるんですか」思わず口に出た。
「えっ?いやぁー、何もつけてないんですよ。オヤジ臭いですか?」自分の腕を嗅ぐしぐさをして、白い歯をみせて笑った。
「そうだ。佐々木さん、これからお時間あいてますか?よかったら息子のことで相談したいことがあるんです」
「はい。大丈夫です」
即答してた。一瞬、旦那の顔が浮かんだ。が0.1秒後にサーッとフェード・アウトしていった。

真っ暗な店内。妖しい赤い照明で飾られたバー・カウンターに並んで座る。ソウル・ミュージックが流れてる。
「スタイリスティックス・・・ですね」
「佐々木さん、よくご存知ですね」
「昔、こういうので踊ってました」
「じゃあ、どこかですれちがっていたかもしれないですね」
その後はクレイマーの匂いと、クレイマーが頼んだ聞いたことも無い名前の甘いカクテルとでトロンとしてしまい、
熱心に子供の相談事を語るクレイマーの目をみつめながら、気の抜けたあいづちを繰り返していた。
「お疲れのようなのでそろそろ帰りますか、ケンタ君のお母さん」
突然息子の名前をきいて、一気に目が覚めた。
ユメオチか。ちぇ。