LITTLE 30 DAY

今日はとてもいい天気だな。
家中の窓を全開にして、幸せのサウンドトラック作りをしよう。
熱いシャワーを浴びて、エスプレッソマシンにスウィッチを入れて、素肌の上にブルーのデニムシャツを着る。儀式だな。
レコード棚からたくさんのドーナツ盤を引っ張り出した。
昔はよくこうやってお気に入りのテープを作ったっけ。
テープは決まってマクセルの金ピカのヤツ。ノーマルはダメだ。メタルもダメだ。やっぱハイポジだよな。
明るい曲を聴いて行こう。曲調が暗くても気分が明るくなる曲ならギリギリOKだ。
せっせと作った幸せのサウンドトラックをラジカセにぶちこんで、近所のフリーマーケットにでかけて行った。
「青空マーケット」なんてベタな名前。
主催者のメガネおばさんは、「作ったテープは売れませんよ」なんていいやがる。
しょうがないからそのへんに捨ててあったダンボールの切れっぱしに「幸せのサウンドトラック 幸せ価格:無料です」と書いて、テーブルにテープを置いた。
ベルボトムをはいた茶色い長い髪の女の子が、テープを見て立ち止まって手にとって笑って「これ、いただきます」と言った。テープをカシャカシャ振りながら。
「無料ってのもなんなので代わりにコレあげます」と、胸につけていたザ・フーの缶バッジを外して僕にくれた。
僕はフーの缶バッジを緑のTシャツの胸につけ、マーケットをぶらぶらした。
ふと、深緑色の古いアコースティック・ギターが目に留まった。ギターが、なんか俺に買ってほしそうなサインをおくってる気がしたから、買った。
ギターを持って海に行き、白い砂浜で白いジャック・ジョンソンになったつもりで白いギターをジャカジャカかき鳴らしていた。
誰もいない海。カップルだらけの海。子供だらけの海。シラけきった海。何かにとりつかれたように奇怪な音を発している俺。
その時、今までの人生でどんなにがんばっても出すことができなかったFコードの音が、それはそれは美しく完璧にに調和された音で世に放たれた。
そう、まるで音が空気に溶け込むみたいに。太陽が海に溶け込むみたいに。甘いなにかが口の中でとろけるように。
みんなが俺の方を振り向いた。黒人の聖歌隊が賛美の歌を歌いだした。タップダンサーが陽気なステップを踏む。砂浜で。
ボードウォークの下でトロピカルジュースを飲んでいる男。よくみるとブルース・ウィリス
もっかいFを奏でてみた。ギタ−はいびつなうめき声をあげ、全ては消えうせた。ブルース・ウィリスも。