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アイスマン

今日は暑い、暑い、デラ暑いぞ。
帰りにボディレーデンのワイルド・バニラ・アイスクリームを買って帰った。
キレイなガラスの器にとりわけた。お父さんの、お母さんの、お姉さんの、お婆ちゃんの。
突然、お婆ちゃんが「あっ!アッフォガードが食べたいね、アッ!」と言った。
ぼくは急いで部屋のエスプレッソマシーンのスウィッチを入れに走った。
部屋のドアを開けた瞬間、今朝からコーヒー豆を切らしていることに気づいた。
コーヒー豆は、自宅から235km離れたバックスタバー珈琲店まで買いに行かなければ手に入らない。
今からバックスタバー珈琲店に行くという事は、ボディレーデンのワイルド・バニラ・アイスクリームをあきらめるという事を意味する。
緊急で家族会議が開かれた。だれが豆を買いに行くのか。
父は一家の大黒柱。我が家を離れる事はできないと主張した。
母は父にぴったりと寄り添って、父のそばを離れる事はできないと主張した。
姉は、行ってもいいが二度と帰ってこないと主張した。
祖母に行かせるわけにはいかない。消去法でいくと適任者はぼくということになる。
消去法を呪った。消去法という極めて後ろ向きな選択方法で選ばれた我が運命を呪った。
玄関でナイキのシューズの紐を固く結ぶ。
ぼくは夜の闇を全力疾走で駆け抜けた。
もう夜だってのにまだ暑くって、すぐに汗が噴き出しお気に入りの赤いTシャツを湿らせた。
バックスタバー珈琲店は定休日だった。
ぼくは田んぼ道をとぼとぼ歩きながら、あいつと食べたアッフォガードの味を思い出していた。
「苦くて甘いなんて、まるで恋みたいね」なんてあいつは言った。確かに言った。
「ぐちゃぐちゃにまぜて食っちまえばいいじゃねぇか」ぼくは柄にもなくそう答えたんだ。
熱くて冷たい人生だよな。