いちょう並木で振り返れ

もう秋。だな。
秋はいつだって俺の知らぬ間にやってきて、いつのまにか出て行ってしまう。
今日はなんだか、(昨日眠れなかったことによる)眠気と、夕方のこの時間と、この体感温度と、この空気の匂いと、街のこの雑踏と・・・、
見えてるもの以外のデジャブ要素が幾重にも重なり合って、かつて"在った"俺にタイムスリップすることを精神が促した。ああ、1日に何回センチメンタルな気分になれば気が済むんだ。俺はまだそんな歳じゃないだろう?
俺はとにかく早く部屋に帰ってシャツを脱ぎ捨ててベットに横になりたい気分を抑えながら、
「秋よ、どうしてお前は俺をいつもこんな風に戸惑わせるんだ?」と心の中で問うた。
秋は、「それが秋なのよ」とこたえた。
俺は、秋が俺の問いに答えたこと、しかも秋が女性であること、しかもその声がクールで魅力的な響きであることに戸惑いを覚え、思わず「えっ?」と聞き返した。
秋は声を立てずに笑いながら、ひゅるりしゅるりと逃げていった。