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ド・リカム

soulknuckle2005-10-18
― ド・リカム ―
ケンジ・EYE:
昼メシに・・・と男2人で入ったソバ屋で、彼女はたまたま合い席になった。
その淑やかなルックスを裏切る豪快な食べっぷりに、僕達がジロジロ見すぎたからだろうか?
彼女はものすごい轟音をたててソバをすすりながら、僕達のほうを見てニッコり微笑んだ。
僕達はその抜群の笑顔につられて思わず微笑み返し、負けずにソバをすすりあげた。
隣でうどんを食っていたゴータは、大学時代からの親友。ラクロス同好会のチームメイト。
ゴータはナンバー1ポイント・ゲッターの超スター選手。僕は控えのゴールキーパーだった。
ルックス良し、センス良し、スポーツ万能・・・ゴータは僕に無いもの全てを持っていた。
出会った女は全てゴータに惹かれる。いつものことさ。僕なんてとてもかないやしない。
彼女の名前はキョーコ。インテリア・デザイナーをしているという。かっこいいな。
ヴァン・モリソンロバート・フランクとアメリカの影で意気投合し、その夜にバーで一杯引っ掛ける約束をして別れた。
この出会いをきっかけに、僕たち3人は週末ごとに連れだって遊びに出かけた。
キョーコに会いたいがために、かっこよくておもしろいゴータを利用して彼女を誘いだした。
僕は、いつも明るく優しいキョーコに、会うたびに心惹かれていった。
でも、僕なんて・・・。いいんだ、キョーコみたいなとても手の届かない女性と会って話しができるだけで、僕はそれだけでよかった。
だけどゴータも彼女の事を気に入っているようで、いつも「ケン、ヌケガケは無しだぜ」と言っては、指で作ったピストルで僕を撃った。弾は僕の心を貫通し、心に開いた穴は夜毎ズキズキと痛んだ。
ある夜、キョーコに突然呼び出された。
キョーコはいつになく神妙な調子で、ゴータから旅行に誘われていると言った。そして、
「私、行くべきだと思う?」
と言った。僕は・・・、僕は・・・、何も言う事ができなかった。
その日はどうやって帰ったのか覚えていない。気がつくとベッドに寝ていた。
夢か!?いや、残念ながら夢じゃない。キョーコは行ってしまった。
昨日着ていた皮ジャンはボロボロに破れ、玄関で脱げずに部屋で脱ぎ捨てたと思われるブーツはかたっぽしかなかった。
その瞬間!全力疾走するダスティ・ホフマンの姿が頭に浮かんできた。
けれど、ダスティの走りは急に失速してすっころんでガケから落ちた。
僕は力なく立ち上がり、ガンガンに痛む頭痛をこらえながらブーツのかたっぽを探して近所をさまよい歩いた。
雨だった。皮のブーツに雨はよくねぇよな。
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キョーコ・EYE:
2人と出会ったのは、ソバ屋さん。
合い席になった2人は、さっきからずっと「ソバ派」か「うどん派」かで争っている。
ソバ派の私は、ソバ派のカレを応援していたけれど、どうもさっきからソバ派の旗色が悪い。今にもうどん派に転向してしまいそうな勢いの無さ。
そんなやりとりがおかしくて、思わず笑ってしまった。
それがきっかけで私達は仲良くなった。
うどん派がゴータでソバ派がケンジ。
ゴータはルックス良しのイケメンで、いかにも女の子にモテそうなタイプ。
ケンジはちょっとヴァン・モリソン似だけど、優しくておだやかで、何より趣味がよかった。
私はそんなケンジに惹かれた。同じソバ派だしさ。
「ごめん、ゴータさ、後から来るからさ・・・」
週末に会う約束をしても、ケンジはいつもゴータを連れてきてしまう。
しかも、いつも1人だけ先に帰ってしまい私とゴータを2人きりにしたりする。
私はケンジとたくさん話して、ケンジの事をもっともっと知りたいってのに・・・。
私はつい、遊び慣れたゴータの作る心地よいペースにのせられてしまう。
ある日、ゴータから旅行に誘われた。
「ケンジは?」「うーん、実はあいつには声かけてないんだ・・・」「・・・そう」
私は思い切ってケンジを呼び出した。
「私、いくべきだと思う?」
ケンジは、何も答えなかった。
その夜、大好きなヴァン・モリソンのキャラバンを繰り返し聴いて、少しだけ泣いて、
次の朝、ゴータの待つ駅へと向かった。
空は曇りだった。なぜか路上にブーツがかたっぽだけ落ちていた。
まるで"寂しげなサイン"のようなそのブーツを、
見なかったことにして駅へと急いだ。
+++
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ゴータ・EYE:
うどん屋で偶然出会ったキョーコ。
俺がじっと見つめていたせいか、こっちをみてニッコリと笑った。
話してみると、とってもいい子だ。
やっと出会えた運命の女性。
今度こそきっといい恋愛ができる。ケンジも応援してくれてる。
思い切ってキョーコを旅行に誘った。OKだった!
道路にかたっぽだけ落ちてたブーツを思いっきり蹴っ飛ばした。
ちょっと曇ってるけど、なーに今日は絶対に晴れるさ。