ケムリガクビシメル

−ケムリガクビシメル−
朝7:30のJR水戸駅3番ホーム突端近くの喫煙コーナー。
俺の朝はここからスタートする。気合の一服ってやつだ。
最近は禁煙ブームだかなんだか知らないけれど、俺の会社もついにオフィス内全面禁煙になっちまいやがった。
カミさんまで家で吸うのを嫌がるようになった。くだらねぇ。
ここは、そんな肩身の狭いヤツラが毎朝集う憩いのオアシスだ。
みんな本当に美味そうに一服一服を噛みしめるようにタバコを吸う行為にひたっている。
「火を貸してくれませんか」
突然、女に話しかけられた。たまにここで見かける抜群にキレイな女だ。キレイな女は目立つ。
「俺、マッチなんだけど、いいかな?」
「ええ、知ってます。だからあなたに声かけたんです」
俺は女のキッパリした受け答えにちょっとだけとまどいながら、
トレンチコートのポケットからファミレス「デニーローズ」のブック・マッチを取り出し、いつものように片手でこすって点火して、
女がくわえた洋モノのやたら長いタバコの先に火をつけてやった。
女はタバコを深く吸い込むと、ゆっくり目をつむって静かに煙を吐き出した。
指に挟んだタバコについた赤いルージュの唇跡と指先で鈍く光るマニキュアとのコントラストが、
俺の視覚神経に激しく揺さぶりをかけた。接近への衝動。たまらず声をかけた。
「君もマッチ派なんだ」
「いえ、トシちゃん派です」
力強く言い切って女は去っていった。
その日を最後に、女の姿を再び見ることは無かった。