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アリ

短編習作

「アリ婆と48人の娘達」
亜理は近所でも有名な働き者だった。
毎日毎日、休むことなく馬車馬のごとく働いた。人々はいつしか彼女の働く姿を評して「人間発電所」と名づけた。
亜理は、巡業で街にやってきた力士兼木こりの大作と恋に落ち、結婚した。
それから2人は子供を作りまくった。
亜理は男の子が欲しくてたまらなくて何度も何度もトライしたが、
産んでも産んでも生まれてくるのは、なぜか女の子ばかり。
18番目の娘が産まれた時、さすがに亜理も息子を産む事をあきらめた。
代わりに、娘達を日本全国48都道府県全てに嫁がせるという野望を、32番目の娘を出産した朝に信長の霊が枕元に立った気がしたことから思いついた。
それから量産体制に入り、なんとか48人目の出産に成功。この時、あまりのハードワークに大作は絶命した。
立派に成長した長女の一子が京都に嫁いだのを皮切りに、亜理の娘達は母の野望を達成すべく全国各地に散らばっていった。
二十二子が北海道に嫁入りを決めた時、亜理は赤飯を炊いて盛大な宴を催した。
その後、四十ニ子が一番の難所と思われていた沖縄へと嫁入りを決め、悲願の全国制覇まであと1県となった。最後に残ったのは茨城県だった。
末娘の四十八子は都会志向が強いキャリア・ウーマンで、茨城県に嫁ぐのを嫌がった。
亜理は、長年の宿願だった沖縄進出が達成された今、正直、茨城県なんて中途半端なマイナー県はほんとうにどうでもよかったのだが、
ジグソーパズルの最後の1ピースが部屋のどこを探してもみつからない時のような気持ちの悪さから、
四十八子を夜通し口説きにかかった。
「いいこと、四十八子。茨城県のカタチをよくご覧なさい。ほら、まるであなたのお気に入りのショートブーツのようなカタチじゃないこと。ここはきっと日本のイタリヤに違いないよ。それに、外反母趾で悩む内気なあなたをそっと包み込むブーツのような優しい男がきっと待ってるよ」
四十八子がどんなに目を細めてみても、茨城県のカタチはとてもショートブーツには見えやしなかったけれど、
”日本のイタリヤ”という響きにだまされて、四十八子は茨城県へと嫁いでいった。
遂に全国制覇を達成した亜理は、1人ベッドに横になり、ゆっくりと目をつむって深い深い眠りについた。