マイ・パーフェクト・タイム

朝の貴重なリラックス・タイム。会社へと続く一直線の道を、愛車のアクセルを躊躇無く思いっ切り踏み込んで、駆け抜ける。購入したばかりの我が愛車。走行時の安定感が抜群だ。どんなに加速しても、まったくブレない車体。まるで、空を飛んでいるかのようだ。下半身がゾクゾクする。

会社に着くと、清掃パートのSさんに挨拶する。Sさんはいつも元気に挨拶を返してくれ、「いい天気ですね」「今日も爽やかですね」「センスいいネクタイですね」などのさりげない一言をいつも添えてくれる。

会社の自動ドアが開くと、憧れの受付嬢Kさんが受付に座っている。残念ながらKさんは「おはようございます」以外の余計な事は一切喋らない。僕の方からも、近づいて気軽に話しかける事ができない。見えないバリヤーが邪魔をする。僕は、受付テーブルの向こう側に隠れているKさんの下半身がスッ裸である事を妄想しながら、エレベーターに乗る。このエレベーター、朝のこの時間は、いつも途中階で止まる事は無い。その上昇速度に下半身がゾクゾクする。僕の完璧な時間。「マイ・パーフェクト・タイム・・・」まるでダイアナ・ロスが「マイ・エンドレス・ラブ」って囁くように、エレベーターの中で一人、そう呟く。

だが、そんなパーフェクト・タイムもオフィスに入った瞬間に終わる。M部長だ。いつも僕より早く出勤しており、デスクで仏頂面で新聞を読んでいる。こちらから挨拶をしても、チラッと一瞥をくれるだけで、いつも挨拶を返さない。クソヤロウが!

今日も気分よく車を走らせていると、マイ・パーフェクト・タイムを切り裂く事件が起きた。後ろから物凄いスピードで接近してきた真っ赤なスポーツカーが、僕の車を強引に追い抜かして行った。いや、まさに「ぶっちぎっていった」という表現がハマる。方向指示器も出さない失礼極まりない抜き去り方だ。スピードメーターを見ると、僕の車も100km/h出ている。という事は、あのスピードだと200km/h以上は出しているはずだ。あいつは赤い彗星か?

その時は、そんなガンダムジョークが飛ばせるくらい取るに足らない出来事でしかなかったが、翌日も、また翌日も、赤いスポーツカーは僕をぶち抜いていった。さすがにイラっときて、なんとか抜かされないよう加速を試みたが、マシンの性能の違いなのか、ぶっちぎりをどうしても阻止できない。いったい誰が運転していやがるんだ?!きっとあのクソ部長に違いない!

誰が運転しているのか、そいつを確かめる為に、いつもより2時間早く出勤し、駐車場に張り込む。赤いスポーツカーが物凄い爆音と共に地下駐車場に入ってきた。いよいよ来たな。運転しているのは・・・やっぱりM部長だ!あの野郎!と、次の瞬間、僕は戦慄を覚えた。運転席から這うように出てきたM部長は、なぜか全裸で首輪をはめていた。首輪にはリードが繋がっており、リードを握っていたのは、後部座席に踏ん反り返って座る、黒いレザーのボンテージ・スーツに身を包んだ清掃パートのSさんだった。四つん這いになったM部長が器用に口で開けた車のトランクの中には、縄でぐるぐる巻きに縛られたKさんが入っていた。ぐったりしたKさんは、なぜか全身びしょ濡れだ。

そんなブライアン・デ・パルマの映画のワンシーンのような光景を思い浮かべながら、僕はエレベーターの中で下半身をゾクゾクさせた。そして、いつものように「マイ・パーフェクト・タイム・・・」と呟いた。