おい、モヒート、お前は誰だ?

フジロックの会場でたくさん目にしたすんごくウンマそうな飲み物。なんでもモヒートっつうらしい。おい、モヒート、お前は誰だ?

 

こうみえても学生時代はバーでアルバイトしていた。たいていの酒・カクテルは知ってるつもりだが、俺がバイトしていた店ではモヒートは出していなかった。早速、調べる。なになに・・・ホワイトラムに、+ミント、+ライム、+砂糖、+ソーダか。店で出してなかった理由は、ミントだな。なんでもこのミントが重要で、ヘミングウェイは大量のミントをグラスにぶち込んで飲んでいたらしい。「ヘミングウェイが愛した」だとか「池波正太郎が通った」だとか「ストーンズのメンバーが注文した」だとか、その類の冠にもの凄く弱い俺。早速、ホワイトラムとライムとソーダを調達して帰る。え?一番大事なやつを忘れてないかって?まあ、心配するな。ミントはねえ、(書いてるそばからニヤニヤしてしまうが、)うちの庭に大量に生えてんだよ!

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ヘミングウェイよろしく大量に毟り取って、そいつをグラスに豪快にぶち込む。

美味い。ライムを多めに入れるといいですね。

 

 

<モヒートの夜>

 

ずっと片思いだったあの娘をようやく誘い出す事ができた。あらかじめネットで調べておいた高級っぽい雰囲気のレストランで食事をしたが、会話は思いのほか盛り上がらなかった。「あ、もしかして、これで帰られちゃうかな」とビクビクしながら、「もう一軒行きましょう」と切り出すと、彼女はこっくりと頷いてくれた。ただし、笑顔は無かった。

次に入ったのは、これもネットで調べておいた敷居が高そうな気取った雰囲気のバーだ。店内はハードなジャズが流れている。テーブルの方が良かったってのに、イケメンの店員に言われるがままにカウンターの方に案内される。

メニューが出てこない。注文を取りにきたイケメン店員に、僕は「ビール」としか言えなかった。彼女がイケメン店員に微笑みながら頼んだのは、モヒートというお酒だった。

モヒート。僕が聞いた事も無い酒を、今までの人生で何回も何回も注文して何回も何回も飲んできたかのようにサラリと注文する彼女の口が、なんだかとてつもなく憎らしく感じた。

バーテンダーがモヒートという酒を、彼女の前に置かれたバカルディのコースターの上に優しく載せた。あまりジロジロとは見れないが、グラスにはなんかの葉っぱが入っていた。あの葉っぱ、なんだろう?ドラクエの薬草みたいな体力が回復するやつなんだろうか。

対面座りから隣座りにシフトチェンジしても、僕達の会話はあまり盛り上がらない。とうとう彼女は、チンコンと唐突に鳴いたスマホの画面を細い指でサラサラと撫ではじめた。

どうしようもない絶望感におそわれながら、彼女が発したモヒートという単語が、ハードジャズの手数の多いドラムの如く僕の頭の中に何度も何度も突き刺さってきた。モヒートという名の呪文で、僕は硬直の魔法をかけられてしまった。

 

あれから何年たっただろうか。僕は今、フジロックフェスティバルでモヒートを注文して飲んでいる。

「この葉っぱさあ、なんだと思う?」

「え?」

パクチーだよ」

「ほんとに?ちょっと飲ませて!・・・もう、これミントでしょ!」

「ハハハ。違うよ。これ、ドラクエの薬草のモデルになった葉っぱなんだよ」

もうモヒートなんか怖くない。きっと今なら、あの日の彼女の笑顔も見れるはずだ。いや、笑い死にさせるくらい爆笑だってさせられるはずだ。あれからずっとかかり続けている硬直の魔法を解くために、僕はもう何杯も何杯も薬草入りのモヒートを飲んでいる。

ベロベロに酔っ払って、ブッ倒れて、地面にキスして、ようやく気付いた。薬草は、いくら飲んでも魔法の効果は解けない。