パターソンの犬と俺と部屋とハンバーグとチワワ

学生時代、ひょんなことで知り合った女の子の家に招かれた。「料理を作りすぎちゃったので」という極めてベタな誘い文句だった。だけど僕は、そのベタな誘い文句を手放しで歓迎しよう。

女の子の狭いアパートには、同居人がいた。子犬だった。チワワみたいな可愛らしいヤツだった。

「へ〜。このアパート、ペット大丈夫なんだ」

「ううん。本当はダメなの。でも、吠えないから大丈夫」

そういう問題じゃないだろと思うが、寂しがり屋なんだね、なんてニヤクシャしてたと思う。

作りすぎたハンバーグを食べる。ハンバーグって作りすぎるものか?と思うが、美味しいね、なんてニヤクシャしてたと思う。

その後、彼女の狭い部屋に鎮座するピンク色のベッドに2人で腰掛けながら、彼女の昔のアルバムを見せられた。会話が途切れ、アルバムをめくる手を止めた時に、彼女の目を見る。彼女の目、濡れてた。その濡れた目に引き寄せられるように、そっとくちびるを・・・

「キャン!キャン!」

チワワが鳴きながら、物凄い勢いで僕の足にマーク・コールマンばりの高速タックルをかましてきた。

「え?この犬、さっき、鳴かないって?」

「あれ、どうしたんだろ?チルチルちゃん(犬の名は忘れた。とりあえずスネ夫が飼ってる犬の名をあてておく)、お〜よちよち」

その後も、パンツを脱いだ瞬間、またチルチルのスイッチが入り、キャンキャン大騒ぎしながらベッドの下をマッハの勢いで駆けずり回りやがるので、僕は完全に気がそがれてしまい、その日はそっとパンツをはいて帰宅した。

 

ジム・ジャームッシュ監督の映画パターソンを見た後に、あの日のおかしな夜を思い出していた。きっとあの映画のブルドッグは、その色からして、もともと奥さん(彼女?)が飼っていた犬で、その後、パターソンが同居人になったと推測できる。

あの2人(1人と一匹)の微妙な関係、俺にはなんだかよくわかる。

耳をつん裂くような甲高い犬の鳴き声と、床を引っ掻いて走り回るあの苛だたしいギ音のハーモニー。普段は布団で寝ている僕だけど、たまにベッドで寝る機会があると、あの音がプログレッシブ・ミュージックの如くどこからともなく聞こえてくるのです。