スイートホーム・コザ

沖縄に出張してきました。

仕事を早々と切り上げた。さあ、街歩きと洒落こもうじゃないか。たまたまロック好きな帰国子女の部下と、スマホで「沖縄 (スペース)ロック」で検索して、たまたまヒットした”コザ”という街。即決して車で向かう。車は、たまたま入ったレンタカー屋のお姉さんが「なんと、お客様、車が青い車なんですよ!」とアッパー気味に薦めてくれたので、その勢いに負けてチョイスした青い車だ。沖縄では、青い車って珍しいのかな?それとも、お姉さんがスピッツ好きだったのかな?そんな青い車に乗り込んで、「コザ・ロックシティ!」と叫び声を上げ、さあ出発だ。

車内でチューニングした米軍基地がやってるラジオから、レッチリのアンダー・ザ・ブリッジが流れてきて、部下と世代を超えて盛り上がる。「この曲の、らった・てぃっ・たってぇって所さあ、これって沖縄っぽい響きだよね」

「はい?」

「らった・てぃった・てぇだよ。沖縄の方言みたいだよね」

「(笑)いやあれは、like I did that dayって言ってるんすよ」

 「ああ?なんて?俺、ずっとアンソニーの造語だと思ってたわ」

「(笑)」

「ところで、お前、チンコに靴下かぶせた事ある?」

などといった下らないやりとりを車内でしているうちに、コザに到着。

ネットで見た通りの雰囲気のある街並みではある。だけど、なんだか寂しげな空気が充満している。見た目ボブ・マーリーみたいなオッさんがやってる立体駐車場に停める。 というか、なぜか吸い込まれるようにそこに車を入れてしまう。「カギ、つけっぱなしにしといて」とぶっきらぼうに言われ、めちゃくちゃ心配になる。おい、沖縄じゃ青い車が人気みたいだけど、盗難大丈夫かな?

コザの街を歩く。人がいない。とにかく人がいない。若者がいない。アーケードの商店街を歩く。誰もいない。猫とはもう三匹目とすれ違っているってのによお。後から聞くと、コザの街が盛り上がるのは金曜日と土曜日らしく、我々が訪れた月曜日は、街が1番静かになる曜日との事。そんなこと、知らねえよ。早く言ってくれよ。

有能な部下の提案で、コザ観光協会へと向かう。有能な部下が、「どこかでライブやってないですか?」と観光協会の方に聞いてくれた。

「7時から、そこで演奏しますよ」

と通りを指差す。どこにでもある普通の通りだ。

「ここで、ですか?」

「ここで、です」

 時計の針は、まだ17時。青い車を停めた駐車場が22時までだった。この時点で、コザに腰を据える事で部下と覚悟を決め、一旦、青い車を引き取りに行く。もしかしたらボブ・マーリーは、もうすでに青い車と共にいなくなってるかもしれないぞという我々の心配をよそに、ボブはタバコを薫せて、そこにいた。ピースサインを出してみる。反応は無い。青い車を別の駐車場に移動し、軽く一杯飲る事にする。

ピンクのネオンが眩しいまるでイート・ア・ピーチのジャケットのような外観のスポーツバーに入る。お客さんは、中年のカップル1組のみ。とりあえずオリオンビールで乾杯。4杯目のオリオンが尽きる頃、時計は18時50分を回る。そろそろ行くかと腰を上げると、若い女性だけの4人組が店に入ってきた。よくよく見ると、安室奈美恵新垣結衣国仲涼子満島ひかりの4人だった。なんでこんな所に?満島ひかりが、ギラギラした目でチラチラとこっちを見てる。イケメンの部下と顔を見合わせるが、縁が無かったなと肩をすくめ、お勘定を叩きつけて、トボトボとライブ会場へと向かう。

コザ ・ミュージックタウンの近くのピザ屋さんの前の交差点が、ライブ会場だ。すでにドラムセットと、移動式に改造されたピアノが置いてある。ピザ屋さんの前に置かれたテーブルに腰をおろす。本日演奏すると思われるギターを担いだ男性が近づいてきて話しかけてくれた。

「どこから来たんですか?」

茨城県です」

「遠くからありがとうございます」

「ライブやっててくれて、救われましたわ」

「(笑)残念ながらピアノが急遽来れなくなっちゃいましてね。代わりに僕が頑張って弾くので、許して下さいね」

許すも何も、こっちは今夜ライブをやってくれるってだけで、感謝の気持ちしかない。

ライブが始まる。観客は我々2人だけだ。なんて贅沢な空間なんだ。誰もいない平日の夜、どこにでもあるような交差点で見るライブに、不思議な感覚と妙な興奮を覚える。我が街だと、「誰かに見られたら恥ずかしいな・・・」なんて状況であろうけど、旅先である事と酔いも手伝って、少しも恥ずかしくない。大声でイェーと叫ぶ。19時の交差点に響き渡る俺の叫び。気持ちいい。

バンドは、アコースティックギター(女性)、ピアノ、ベース、ドラムのカルテット構成。ギターの女性とピアノの彼は姉弟で、2人がボーカルをとれる。ジャンルは、ジャズ&ブルースといった雰囲気で、めちゃくちゃ俺好みの音だ。酒がすすむ。来てよかった!コザ!

ピアノを弾いていた彼が、本職であろうギターに持ち替え、クラプトンのアンプラグドにも入ってるbefore you accuse meを演奏してくれた。よい!さらにビールが進んでしまう。

ライブは、顔なじみであろう観客の飛び入り参加もあり、ゆる〜く進む。あっという間に最後の曲が終わる。物足りなくて、アンコールを要求する俺。心よく演奏してくれるバンド。まだ物足りなくて、更にアンコールを求める俺。流石に苦笑いのバンド。「クラプトンもう一回演って!」と言うと、「じゃあ、最後にクラプトンの違う曲を」と、nobody knows youを演ってくれた。染みた。

曲が終わった後に、鳴り止まない絶叫と鳴り止まない拍手をしていると、ギターのお姉さんが近づいてきて、「せっかくの出会いを記念して」とニッコリ笑い、キャロル・キングのyou've got a friendを超至近距離で弾き語ってくれた。近い。照れる。「クローズ・ユア・アイズ」って歌詞の所から、僕はずっと目を瞑ってしまったけれど、決して恥ずかしかった訳じゃないんだぜ。あの時、コザの街でおきた奇跡に感謝していたんだよ。

 スイートホーム・コザ、ありがとう。また行けるかな?行きたいな。いつの日か・・・。