仕事の流儀

おい、そいつは無理な相談だ。いや、決して嫌だからじゃ無いんだぜ。ああ、俺がやったら子供達に馬鹿ウケする事はわかってる。だけど、あれデリケートなコンテンツだろ?なにせ、信じてる奴だっているんだぜ。そいつの夢、壊す事になっちまったらどうする?

 

必死に訴えているってのに、「ドッジボールの監督をやらなかった」だの、「親子キャンプをボイコットした」だの、「廃品回収で分別しなかった」だの、この1年間で積み上げてきた俺の数々の悪行・前科を列挙してシクシク泣きやがるもんだから、仕方無しに引き受ける事にした。女の涙ってやつに俺はすこぶる弱い。

 

最初に言っとくけど、やると決めたからには俺は中途半端な事はやらないぜ。全力でやりきるからな。トラウマになる奴がいても、責任取らないからな。

 

まずは装備を整えよう。100円ショップに衣装を買いに行く。ここには衣装セットは売っているが、そのセットには帽子と簡単なヒゲが付属しているだけで、肝心の髪の毛と眉毛は付いていない事は知っていた。あれが無いと、完全体になりきれないセルのように間抜けな感じに仕上がるって事は、リサーチ済みだ。白いストールと綿とマスクを買い足し、白髪とヒゲともみあげを増量する。

服は、タンスの奥にしまってあったノースフェイスの「ダウンがパンパンに詰まったダウンジャケット」を引っ張り出し、その上から衣装を着て上半身をパンプアップする。

佇まいと話し方を研究する為、ウルトラマンエースの第38話と1985年公開のサンタクロースという映画を借りてみるが、なんの参考にもならない。

 

いよいよ本番だ。会場に着くと、待機場所である薄暗い倉庫に案内される。そこで衣装に着替えている時に、なんともいたたまれない寂しい気持ちに襲われた。

ああ、ヤツがまた来たか。

うん。来ちゃった。

お前が来るのは、いつ以来かな?直腸検査の前にパンツを脱いだあの時以来かな。

・・・久しぶりね。

もう、来るなよ。俺だって家庭があるんだぜ。

だって、しょうがないじゃない。

和田アキコか、お前は。

なんて心のやり取りをしてる内に、倉庫の扉が開いて、「そろそろ出番です」の声がかかる。登場曲は、自分でCDまで持参してあらかじめお願いしておいたヴァン・ヘイレンのジャンプだ。イントロが流れ、最初の唸るような絶叫に合わせてステージにスライディングで滑り込む。素早く立ち上がると、デイブ・リー・ロスばりのローリング・ソバットをキメる。子供達は、ポカーンと呆気に取られている。関係無いぜ。

「メ〜リ〜 ・(タメて)クリスマ〜ス!」

地声のデカさと太さには定評がある。ジョン・カヴィラ声で、両手を広げて思いっきり挨拶すると、子供達は大盛り上がりだ。

「悪い子は、いねがー」

「それ、ナマハゲだろ!」

・・・サンタをやるにあたり、家内からは、「子供達には絶対に内緒にしておくように」と箝口令が敷かれていた。が、ムードメーカーの次男には事前にこっそり打ち明けていた。

「あのさ、実はね」

「何?」

「絶対に秘密だぞ」

「うん」

「これを父さんがお前に言った事も、お母さんには絶対に秘密だぞ」

「うん、うん」

「明日の子供会のクリスマス会で、サンタクロースが出てくるんだよ」

「へ〜」

「そのサンタ、父ちゃんなんだ」

「!」

「誰にも言うなよ」

「わかった」

「で、お前にお願いがあるんだけど」

「何?」

「最初に、「悪い子いねがー」って言うから」

「それ、ナマハゲじゃん」

「そう!デカイ声でツッコミ入れてほしいんだよ」

「ヤダよ、絶対ヤダよ」

「頼むよ、俺が考えたツカミなんだよ」

「ヤダよ、恥ずかしいよ」

「父ちゃんのサンタの方が恥ずかしいだろ!ツカミでスベったらもっと恥ずかしいだろ!」

「え〜〜〜、ヤダよ」

「うるさい!やれ!クリスマスプレゼント無しだぞ」

「え?・・・わかったよ。やるよ」

「よ〜し、よ〜し。じゃあ、リハーサルしよう」

という家庭内パワハラで、ツカミの小ボケ&ツッコミのネタを仕込んでいた。タイミング、声の調子など何度も何度も練習したのだが、ナマハゲのボケが思った以上にウケてしまい、次男のツッコミは子供達の笑いにかき消されてしまっていた。すまん、次男。

 プレゼント小話を披露した後、退場時にビートたけしばりの階段コケを披露。これも子供達は大爆笑だ。最近の子達は、規制だコンプライアンスだで制約だらけの生活なので、ちょっとしたパンキッシュ・パフォーマンスが相当ウケる。ポイズン溜まってますな〜、現代社会。

 

反省会)

 嫁:やるとは思っていたが、あそこまでやれとは言ってない。

長男:滑り込んできた瞬間に、オヤジだとわかった。恥ずかしかった。「誰のオヤジだ?」ってめちゃめちゃ話題になってたけど、恥ずかしくて言い出せなかった。

次男:ツッコミのタイミングが気になって、会自体が全く楽しめなかった。

三男:サンタ、おもしろかった。

 

今夜は、毎年恒例のファンタスティックミスターフォックスを家族で見ることにしよう。メリークリスマス。

 

 

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