今夜、ハードロックな吉ギューにて

いらっしゃいませ〜。空いてるお席どうぞ〜。

 

「すんませーん、なみたまごみそしる」

「え!先輩、注文早っ!」

「なんで?お前、あらかじめ心に決めてないの?」

「ええ。吉野家ってあんまり来ないので、メニューゆっくり見たいなって」

「あんま来ないの?」

「え?先輩は?」

「俺、好きすぎてバイトしてたから」

「うそでしょ」

「マジマジ。そんでね、クールな客はみんな並・卵・味噌汁のコンボだから」

「え?」

「まず、座るのはカウンターの方な。テーブルの方行っちゃったら、その時点で客としてアウトだから」

「なんでですか?テーブルの方が落ち着くでしょ」

「おいおい、吉野家に落ち着きを求めんなよ。カウンター直行よ。でな、吉野家のカウンターのカウンターの意味は、カウンターパンチの略だから」

「よくわかんないんすけど」

「店員が「いらっしゃいませ」って言った瞬間、注文繰り出せって事だよ。で、並・卵・味噌汁な。これ、いわばジャブ・ジャブ・右ストレートだから」

「・・・」

「なみたまごみそしる ・・・言ってて気持ちよくない?これね、2文字・3文字・4文字の階段アップ式単語構成なんだよ。これがね、いわゆる吉野家注文の黄金比率。完璧な美しさを誇ってるよね」

「そうすか?」

「粋な客はだいたい並・卵・味噌汁だから。店員目線でも、こいつわかってんな〜って。これね、3つで500円ジャストなのよ。ワンコイン。これ、会計時、客も店員もノンストレスな。で、注文受けた瞬間、会計時に「並卵味噌汁500円です」って言える喜びと、客が一万円札か五千円札か千円札か500円玉か小銭でジャスト出してくるか、その5つの未来が見えるんだよな」

「はあ」

「だいたいなあ、税金の何が面倒臭えって小銭だよ。小銭は、チャラチャラしてて邪魔でしかない。会計締めるときも小銭が合わないとめちゃくちゃストレス感じるだろ?」

「まあ、確かに」

「あれがね、日本経済を蝕む悪の象徴だよな。あ!ドント・ルックバック・イン・アンガーかかった!」

「って、いつの間にリクエストしてたんすか!って、え?」

「ここの吉野家ね、店長の趣味なのか、有線が洋楽ロックなんだよね」

「お待たせしました〜。牛すき鍋膳です」

「え?何これ?」

「なんかうまそうっすよね。1人スキヤキみたいで」

「俺がバイトしてた時、こんなの無かったぞ」

吉野家も進化してるんすよ。先輩、メニュー見ないから、気づかないんすよ」

「・・・ちょっとだけ、ちょうだい」

「ダメです」