カセットテープによる布教活動

春は、出会いの季節すね。

かつては出会いの度に、自作のカセットテープを配布、若しくは交換しまくってました。まるで、サラリーマンが名刺を配りまくる感覚で。

「趣味は音楽鑑賞です」って耳にした瞬間に渡しに行く勢いで配布していました。もはや布教です。僕が産み出したあのテープ達、もう廃棄されちゃってるのかな?

 

「ただただ東京に行きたい」というそれだけの理由から、「東京の予備校に夏期講習に行かないと、大学に受からないんだって」の殺し文句で素朴な両親を騙くらかし、まんまとしけ込んだ東京滞在一週間。高校三年生に与えられた一夏の自由時間だ。今なら予備校なんて行かず、飲み倒し遊び倒し暴れ倒し東京を満喫する所なのだが、あまり裕福な家庭でないのに黙って高額な受講料と宿泊費を捻出してくれた素朴な両親への罪悪感から、予備校には真面目に通った。講義の後、東京中の中古レコード屋と古着屋を見て回っていた。ディスコ、クラブ、ロックバー、それより更にいかがわしい場所には、度胸が無くて一人では行けなかった。

 

夏期講習の最終日、見知らぬ女の子から予備校の廊下ですれ違い様に折り畳んだメモを手渡された。メモを開くとそこには、整った小さな字で「講義が終わった後、校舎の裏に来て下さい。」とだけ書いてあった。

 

その日の授業は、全く頭に入らなかった。まるで、俺が落とした消しゴムを拾うかのように、あっさりとメモを手渡してきた女子。メモに書いてあるあっさりとしたメッセージ。これ、行ったらどうなるんだ?普通に告白のパターンか?それとも恐い連中が待っていて、金を巻き上げられるパターンか?可愛い子だったか?よく見なかったぞ。薄いキャミソールみたいな服だったな。薄いキャミソールみたいな・・・。東京って恐いな。

悩んだ末、結局、行く事にした。今日は講義最終日だ。もうこの予備校に来る事はない。馬鹿にされても笑われても構うもんか。

 

校舎裏の細い路地に行くと、さっきの薄いキャミソールみたいな服を着た女の子が立っていた。

「突然、ごめんなさい。あの、、彼女さんとか、いますか?」

「いや、いないです」

「もしよかったら、一緒に海に行ってくれませんか?」

「え?」

事情をよくよく確認すると、女の子は親友と海に行く事になり、親友が彼氏を連れてくるらしい。自分には彼氏がいないので、よかったら一緒に行ってくれないかという依頼だった。

まあ、心に茨を持った少年にとってはあまりにハードルが高すぎる依頼だが、東京の高校生に見られた事が嬉しくてたまらなく、自分は東京の高校生では無い事、明日には田舎に帰る事を明かし、明日は大学の下見に行く予定なので、よかったら一緒に行きませんかと思い切って誘ってみた。彼女は上気して紅潮した頰を更に赤く染め、コクリと頷いた。

 

(あ〜、面倒くさいから中略するわ)

 

別れ際に僕は、ウォークマンに突っ込み放しになっていたデビット・ボウイのマイ編集ベストテープを渡した。

「これ、2人の出会いの記念に。僕の大好きなアーティストなんだ」

「ありがとう。絶対聴くよ」

「うん。また、東京で会おう」

つって別れて、それっきり2度と会ってない。

素直な女の子だったので、きっと今は幸せな家庭を築いていると思う。僕のボウイのテープは、きっと廃棄してしまっている事だろう。そして、ボウイももうこの世にいない。

 

side A

1 スペース・オディティ

2 ライフ・オン・マース

3 スターマン

4 サフラジェット・シティ

5 クイックサンド

 

side B

1 オール・ザ・ヤング・デュード(モット・ザ・フープル

2 ジョン・アイム・オンリー・ダンシング

3 チェンジス

4 ブラック・カントリー・ロック

5 ハング・オントゥ・ユアセルフ

6 ロックンロール・スーサイド